第26話 束の間の休息
「わ〜い! 着いたわ〜!」
「海の上も楽しかったけど、やっぱり地面の上は落ち着きます〜!」
船から降り、はしゃいだ様子を見せるリリスとフェリス。
一日半の船旅を終え、ティオたちはバーレイブ王国の港都市〝クラリス〟へと到着した。
ここまで送ってくれた乗組員たちにお礼を言うと、ティオたちは宿屋を確保することにする。
ひとまず、今日のところはこの都市に泊まるつもりなのだ。
「なるほど、港と都市が直接繋がっているのか」
「リューインとはまた違う雰囲気の都市ですね」
辺りを見渡しながら、ティオとアイリスがそんなやり取りを交わす。
リューインのように、都市の中に水路を張り巡らし、ゴンドラが行き来するような造りにはなっていないようだ。
ベルゼビュートは、走り回るリリスとフェリスが迷子にならないように面倒を見てくれている。
「はぁ、魔王たるこの私が子守なんて……」
そんな風にボヤきながらも、その表情は優しく、どこか楽しげだ。
「ねぇ見て、妖精さんよ」
「ああ、それにあの二人はAランクの冒険者みたいだ」
「お貴族様の船から降りてくるなんて、何者なのだろう……?」
道ゆく人々が、そんな会話を交わしている。
そういえば、この国とも侯爵家は交流が盛んだと、ガゼル侯爵が言っていた。
しかし一般人が船の家紋を見ただけでわかるとは……本当に交流が盛んなようだ。
そんな侯爵家の船から降りてきたのが、高ランクの冒険者であるティオたち、それに妖精族であるリリスたちなのだから、目立ってしまうのは当然かもしれない。
人々の視線を浴びながら、都市の中を歩くティオたち。
船の乗組員たちに教えてもらった通りに道を行くと、宿屋街が見えてきた。
「あそこなんていいんじゃないかな?」
一際大きく、綺麗な外観をした宿屋を、ティオが指差す。
初めての場所だし、希少な存在であるリリスとフェリスもいることだ。
安全と防犯を考慮し、高めの宿屋に泊まるに越したことはないだろう。
宿屋に入るティオたち。
外観に負けず劣らず、中もしっかりとした造りになっている。
「ようこそおいでくださいました、冒険者様方」
すぐに出迎える宿屋の女性従業員。
ティオとアイリスの冒険者タグを見て、上客になるかもしれないと判断したのか、すぐに部屋の手配をしてくれる。
今度こそティオは別部屋にしようとしたのだが……アイリスにベルゼビュート、それにリリスとフェリスにまで猛反対され、一緒の部屋にされてしまう。
皆同じ部屋と聞き、女性従業員の頬が赤く染まる。
どうやらグラッドストーンの時と同じく、アレな誤解をされてしまったらしい。
◆
「ふぁ……」
「眠いのです〜……」
部屋に通されたところで、リリスとフェリスがアクビをする。
どうやら船旅で疲れてしまったようだ。
「それじゃあ、夕食の時間まで少し眠るといい」
そう言って、ティオは部屋のソファに座ろうとするのだが――
「ティオも一緒に寝よ〜」
「私も一緒がいいです〜」
そう言って、リリスとフェリスが、ティオの服をクイクイと引っ張ってくる。
「仕方ないな」
ティオは苦笑しながら、フェリスを抱っこし、リリスをその上に乗せると一緒にベッドの上に寝転がる。
「くっ! シングルベッドを選ぶなんて……!」
「上手く回避されたわ……!」
悔しげな声を漏らすアイリスとベルゼビュート。
この部屋にはクイーンサイズのベッドが一つと、シングルベッドが一つある。
アイリスとベルゼビュートの二人に〝むにゅむにゅサンド〟にされるのを回避するべく、ティオはあえて狭い方のベッドを選んだのだ。
(ふぅ、久しぶりに何も気にせず眠れそうだ……)
ほっと息を吐き、目をつぶるティオ。
ここ最近はずっとアイリスとベルゼビュートと一緒に眠っていた。
もちろん、彼女たちの優しさや体温は心地よいのだが、二人とも絶世と頭につくほどの美少女・美女であるため、どうしても緊張してしまうのだ。
その点、リリスとフェリスは美少女ではあるが、見た目と言動が幼い子どものそれであるため、特に緊張することなく一緒に安眠することができるのである。
「仕方ないわね、私もマスターたちが起きるまで眠ることにするわ」
「私も、少し疲れましたし。ベルと二人だけで眠るのは何だか不思議な感じですね」
「うふふ……そうね」
ベルゼビュートとアイリスは、二人で苦笑し合いながら、もう片方のベッドに寝転がる。
普段はティオを取り合って、視線で火花を散らしている二人だが、何だかんだで仲はいいようだ。
「ティオの手、あったか〜い……」
「ティオさんと一緒にいると安心します〜……」
リリスとフェリスが、そんな言葉を漏らしながら、眠りについていく。
二人の妖精に、ティオは本当に懐かれてしまったようだ。
(ルミルスの大樹海まで送るのはいいけど「一緒に住め!」なんて言われないよな……?)
リリスとフェリスの懐きっぷりに、ティオは少しだけ、そんな不安を覚えてしまう――。
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