第28話 ポニーテールとツーサイドアップ

 夜――


「さて、それじゃあ行くとしようか」


「はい、ティオ様」


 宿屋に設けられたレストランにて夕食を終えたところで、ティオとアイリスが立ち上がる。


 マリサ伯爵から依頼のあったクエストを正式に受けるために、冒険者ギルドへと向かうのだ。

 その際に、一緒に同行する冒険者チームの紹介をしてくれるよう、ギルドに手配してくれるそうだ。


 リリスとフェリスはおネムのため、ベルゼビュートママと一緒に、宿屋でお留守番することになった。


「気をつけてね、マスター?」


「ああ。なるべく早めに帰ってくるよ、ベル」


 眠たさで船を漕ぎ始めた、リリスとフェリスの面倒をみるベルゼビュートに応えると、ティオはアイリスを連れて冒険者ギルドへと向かう。


 ◆


「すみません、伯爵様からの依頼の件で来た、ティオと申します」


「あなたが……! お待ちしてました、こちらへどうぞ!」


 ギルドのカウンターで、ティオが用件を告げると、受付嬢がパッと表情を輝かせる。


 グラッドストーンの受付嬢とは対応がエライ違いだ。

 恐らくマリサ伯爵の指名があったことと、ティオが黒魔術士だと知られていないのが大きいのだろう。


「皆さん、明日のクエストに同行する方たちをお連れしました!」


 グラッドストーン同様に、このギルドには酒場が併設されていた。

 そこの一角へと案内されたところで、受付嬢の声に、二人の少女が視線を向けてくる。


「ふん……っ、お前たちがよそ者の冒険者というやつか」


「しかも男がいる……。伯爵様は何を考えている……?」


 ティオとアイリスを見るなり、そんな言葉を吐く少女二人。


 前者は黒銀の髪をポニーテールにした、凛とした雰囲気の少女。

 後者は同じく黒銀の髪をツーサイドアップにした物静かそうな少女だ。


 二人とも、ティオとアイリスを不快そうな表情で見ている。


 彼女たちのそんな態度に、ティオは戸惑った様子をし、アイリスは不快そうな雰囲気を醸し出す。


「〝ユリ〟さんも〝スズ〟さんも、そのような態度はよしてください。お二人が困っているではないですか!」


 二人の少女――ユリとスズというらしい――に、注意する受付嬢。


 しかし、ポニーテールの少女ユリは「ふん……っ」と鼻で笑い、スズはプイッっとソッポを向いてしまう。


 彼女たちの反応を見るに、よそ者……特に男性にいい感情を持っていないようだ。


「えっと……ぼくはティオといいます。あまり歓迎されてないようですが、伯爵様からの依頼ですので、明日はよろしくお願いいたします」


 戸惑いながらも、挨拶をするティオ。


 そんなティオに――


「……ユリ。妖刀使いだ」


「スズ……。魔剣使い……」


 と二人ともとりあえず返事をしてくれた。


「ユリさん、スズさん、よろしくお願いします。ぼくは黒魔術士で、彼女はアイリスさんといって、剣聖です」


 ティオは自分のクラスを明かすとともに、機嫌悪そうな表情をしたアイリスの代わりに、彼女の紹介もする。


「は……? ちょっと待て、剣聖の彼女はわかるが、お前……黒魔術士だと?」


「スズたちのこと……馬鹿にしてる……?」


 ギロリ……と睨んでくるユリとスズ。


 Aランク冒険者のタグを下げているのに、底辺職と馬鹿にされる黒魔術士を名乗ったことが原因だろう。


「いえ、馬鹿にしてなどいませんよ。ぼくは黒魔術士です。しかし、特殊なスキルを持っているので問題ありません」


「何……?」


「特殊なスキル……?」


 ティオの言葉を聞き、今度は訝しげな表情を浮かべるユリとスズ。

 そんな二人に、ティオは「明日のクエストでお見せします」と、笑顔で答えてみせる。


「ふんっ……まぁいい、足手まといになるようなら置いていくだけだ。ピンチになろうと助けはしない。覚えておけ」


「明日の朝……七時にここに集合……」


 そう言って、ユリとスズは立ち上がると、そのままギルドの外へと出て行ってしまった。


「すみません、ティオさん、アイリスさん、あの二人が失礼を……」


 二人が去った後、受付嬢が申し訳なさそうに謝罪してくる。

 それに苦笑しながら「大丈夫ですよ」と応えるティオ。


 そのままクエストの受注を正式に終わらせると、アイリスとともに宿屋へと戻ることにする。


 ◆


 帰り道――


「ティオ様、本当にあの二人とクエストを受ける気ですか……?」


 不満そうな表情で、アイリスが訪ねてくる。


「アイリスさん。確かに二人ともぼくを歓迎してくれてないようですが、だからといってモンスターを見逃すわけにはいきません」


「それはそうですけど……」


「大丈夫です。きっとぼくたちの実力を見てもらえれば、ユリさんとスズさんも納得してもらえます。アイリスさんだって最初はそうだったじゃないですか」


「あぅ〜……その節はとんだ失礼を……」


 ティオの言葉で、彼に対し出会った当初に、失礼極まりない態度を取ってしまったことを思い出したようだ。アイリスが恥ずかしそうな表情で頬を赤くする。


「ぼくは気にしてませんよ。むしろ、アイリスさんと旅ができて楽しいくらいです」


「ティオ様……!」


 ティオの言葉で、パッと表情を輝かせるアイリス。

 嬉しさのあまり、エルフ耳をピコピコと上下させている。


 彼女はそのままティオの腕に自分の腕を絡めると、幸せそうな表情で寄り添い歩く。

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