第14話 波乱の予感

「へぇ、なかなか賑やかな都市じゃない」


 都市グラッドストーンへと帰ってきたところで、ベルゼビュートが辺りを見渡す。

 道ゆく人や、露店の数々に興味津々といった様子だ。


 ちなみに、ベヒーモスは外で降りて再びEXスキルを発動することで元の空間に帰還してもらった。

 ベヒーモス本人は不満そうだったが、さすがに街中で乗り回しては悪目立ちしてしまうので仕方あるまい。


「まずはギルドに行きましょう。アイリスさんの依頼達成の報告をしないと」


「そうですね、ティオ様。回収した死体の買い取りもしてもらいましょう」


 ティオに答えながら、アイリスが手を握ってくる。

 どうやら手を繋いでギルドまで行きたいらしい。


「あら、ずるいわよ? 私もマスターと一緒に歩きたいわ」

「え、ちょ……ベル!?」


 アイリスに対抗するかのように、ベルゼビュートが反対側に回って、ティオと腕を組んでくる。

 絶世の美少女エルフ、そして絶世の妖艶美女に挟まれ、ティオはタジタジだ。


 結局、さらに対抗心を燃やしたアイリスにまで腕を組まれる羽目になり、ティオは両側から柔らかな感触に挟まれながら、ギルドに向かうこととなる。


 ◆


「は……? また追放黒魔術士がトンデモナイことしてんだけど?」


「誰だ、あの妖艶な美女は!?」


「いや、それよりも、剣姫様がビキニアーマー着てるぞ! 股間に悪い!」


 ギルドに入った瞬間、男性冒険者たちの、そんなやり取りが聞こえてくる。


「うぅ、ギルドに来る時くらい外套でも羽織っておけばよかった……」


 ビキニアーマーから溢れる胸の谷間を腕で隠しながら、アイリスが不快そうな表情を浮かべる。


 見れば女性冒険者までもが「お姉さんに挟まれてドギマギする黒魔術士くん、可愛い……」などと、ティオに熱っぽい視線を向けている。


「クエスト達成の報告にきました」


「おかえりなさいませ。アイリスさん。……またティオさんも一緒なのですね。それにそちらの方は……」


 受付カウンターにいたのは昨日の受付嬢だった。

 またもやアイリスにベッタリとくっつかれるティオと、ベルゼビュートに視線を送る。


「もちろんです、ティオ様とパーティを組むことになりましたので。それと、彼女はベルといいまして、彼女もパーティに加わることになった支援術士です」


「黒魔術士とパーティをですか……」


 難しい表情をして、受付嬢が声を漏らす。

 まぁ、ティオの実力を知らなければ、そんな反応も当然である。


 そんな反応をしつつも、受付嬢はベルゼビュートに挨拶を済ませ、達成報告の作業へと入ろうとする。


「あ、それならまた裏庭をお借りしていいですか?」


「裏庭……ということは、またモンスターの死体を丸々持ってきたのですね、かしこまりました」


 ティオにそう言って答えながら、受付嬢は三人を裏庭へと案内する。


「それでは、《ブラックストレージ》!」


 ティオがEXスキルを使い、モンスターの死体を取り出す。


 それを見て、受付嬢が「な……!?」と目を見開く。

 そこには百を超える下級〜中級のモンスターの死体の数々が積み上がっていたからだ。


 昨日、レッサードラゴンの死体を取り出した時も驚愕したが、今回の量はその比ではない。

 アイテムボックスや、通常の収納スキルでは、こんな量を収納するのは不可能だ。


「ど、どの死体も新しい……。ということは、本当にこの短時間で……!?」


 いくつかの死体を確認したところで、ティオに視線を向ける受付嬢。


 いくらアイリスが強いと言っても、一日でこれだけの量を討伐するのは不可能だ。

 新たに加わったベルという女性は支援術士だと言っていたし、そうなるとティオが加わり戦力が大幅に拡大した……ということになる。


 こうなれば、昨日アイリスが言っていたレッサードラゴンからティオが救い出してくれたという話も本当なのかもしれない……。


 そんな考えが、受付嬢の頭の中に浮かぶ。


 受付嬢のそんな反応を見て、アイリスが満足げな表情を浮かべる。

 ティオの実力が信じられ始めたことが、嬉しくてたまらないといった様子だ。


 そんなこんなで、アイリスの受注クエストは無事に達成となった。

 ミノタウロスナイトを含めて、全ての死体を買い取ってもらうこともでき、懐もホクホクである。


 ◆


「は……? 同じ部屋で寝るだって!?」


 ギルドで手続きを済ませ、宿へ戻りベルゼビュートの分の部屋を手配しようとしたところで、ティオが素っ頓狂な声を上げる。

 ベルゼビュートが、ティオと同じ部屋で寝ると言い出したためだ。


 それを聞いたアイリスが「そんなのダメに決まってます!」と、顔を真っ赤にして抗議するのだが、当のベルゼビュートは――


「仕方ないでしょ、私は使い魔よ? 使い魔はマスターと一定の距離から離れることができないんだもの」


 ――と、妖艶に笑いながら答える。


 まさかそんな制約があったとは……。

 となると一緒の部屋で過ごすしか手はない。


 こんなにも色っぽい美女と同じ部屋で過ごす……。

 そう考えただけで、ティオはドギマギしてしまう。


「うふふっ、マスターったら顔が赤いわよ?」


 そう言って、ベルゼビュートがティオにしなだれかかってくる。


「そ、それなら! 私も同じ部屋で寝ます! 三人部屋でお願いします!」


「ちょっ! アイリスさん!?」


 アイリスの突然の発言に、またもやティオが素っ頓狂な声を上げる。


 やり取りを見守っていた宿の女性スタッフも「さ、三人部屋ですかぁ!?」と、驚いた声を上げ、顔を真っ赤にしてる。

 何やら〝アレ〟な想像をしてしまったらしい。


 ティオは断ろうとするも、アイリスのゴリ押しにより、結局三人同じ部屋で過ごすことになってしまう……。

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