第15話 むにゅむにゅサンド

 とりあえず三人部屋を確保したティオたち。


 ちょうど夕食時なので、近くの酒場へとやってきた。

 少し騒がしいが、味は他のレストランに負けず劣らずだと、アイリスのお墨付きだ。


「ティオ様、今日はお酒はどうします?」


「そうですね。せっかくベルが仲間に加わったことだし、今日も少し飲みましょうか」


「あら、使い魔のことを気にかけてくれるなんて、何だか嬉しいわ」


 ティオの言葉を聞き、ベルゼビュートが小さく笑う。

 給仕の娘を呼び、適当に注文を済ませると、程なくして三人分の飲み物が運ばれてきた。


「うふふ、お酒なんてどれくらいぶりかしら」


 白の葡萄酒が入ったグラスを眺めながら、ベルが言う。

 なんでも、ティオに呼び出されるまではこの世とは別の空間にいたらしく、そこでは食事すら摂っていなかったそうだ。


(隔離された空間か……)


 ベルゼビュートの言葉を聞き、ティオは思い出す。

 そういえば、聖魔王ベルゼビュートはこの世とは別の次元にその身を潜めているという言い伝えを。


 目の前のベル――ベルゼビュートの話を聞き、いよいよ彼女が本当に聖魔王ベルゼビュート本人なのではと思えてきてしまう。


 それはさておき。


 グラスを静かにぶつけ合う三人。


 葡萄酒を飲み、うっとりとした表情を浮かべるベルゼビュートに、ティオは思わず見とれてしまう。


 そんなティオの様子に、アイリスは「むぅ〜〜っ」と、ほっぺたを膨らませる。

 ティオが他の女性に目を奪われていることに、嫉妬してしまっているようだ。


 アイリスの反応を見て、ベルゼビュートが「うふふ……っ」と、挑発的な笑みを浮かべ、それに対してアイリスが「く……っ!」と悔しげな表情を。


 表情をコロコロ変える二人に、ティオは「……?」と不思議顔だ。


「お待たせしました〜!」


 ちょうどそんな頃合いで、給仕の娘が料理を運んできた。


 この都市、グラッドストーンの近郊には森があり、新鮮な猪の肉が取れる。

 運ばれてきたのは猪肉の大皿ステーキ、それにサラダにスープだ。


「ティオ様、あ〜んです」


 そうだ! みたいな表情を浮かべた直後、アイリスがステーキ肉をフォークで刺し、ティオに差し出してくる。


 アイリスのいきなりの行動に、ティオは「え、ちょ……」と、タジタジだ。


 そんなティオに、アイリスは――


「嫌、ですか……?」


 ――と、悲しげな表情を浮かべてしまう。


「うっ……わ、わかりました。いただきます……」


 女の子を泣かせるわけにはいくまい。

 ティオはアイリスのフォークからステーキ肉を頬張った。


 アイリスの表情がパッと輝く。

 そしてベルゼビュートに向けて余裕の笑みを浮かべる。


「こ、小娘が、舐めた真似をしてくれるじゃない……」


 口元をヒクヒクさせながら、引きつった表情をするベルゼビュート。


 だが、彼女もこれで終わるつもりはないようだ。

 アイリスに対抗して、自分もフォークに肉を指すと「マスターぁ、あ〜ん♡」と言って、隣の席のティオに密着してくる。


「ベ、ベルまで……!?」


 彼女の柔らかな感触にドキッとするティオ。


 アイリスは「く……っ、なんでわたしは横に座らなかったの!?」と、配置選びのミスに気づく。


 そんなやり取りを交わしながら、三人は楽しく(?)時を過ごすのだった。


 ◆


 夜――


(い、いい匂いがする……)


 宿屋のベッドの上で、緊張した面持ちをするティオ。


 部屋には風呂から上がったアイリスとベルゼビュートの二人がいる。

 二人ともバスローブ姿であり、髪や肌から風呂上がりのいい匂いが漂ってくるものだから気が気ではない。


「それじゃあ、マスター。お風呂も入ったことだし、黒魔力の補給をお願いするわ」


 緊張するティオの横に、そう言いながらベルゼビュートが腰掛けてきた。


「く、黒魔力の補給……?」


 バスローブ一枚で密着してくるベルゼビュートに、上ずった声でティオは聞き返す。


「そうよ、使い魔である私にはマスターの魔力の補給が必要なの。定期的に、五時間以上密着した状態で一緒に寝てもらうわ」


「は……!?」


「そ、そんなのダメに決まってるいるじゃないですか!」


 ティオとアイリスが叫ぶのは同時だった。


「仕方ないじゃない。魔力の補給はそうしないと行えないし、マスターの魔力の補給がないと、私はこの世界にいられなくなっちゃうわ」


 そう言って説明をするベルゼビュート。

 そのままベッドの上で膝立ちになると、バスローブに包まれた豊満なバストの中に、ティオの顔を抱き込んでベッドに倒れこんでしまった。


「うむぅ〜〜〜!?」


 ベルゼビュートの胸の下から、くぐもった声を漏らすティオ。


「うふふっ……マスターったら、反応がウブで可愛いわ♡」


 そう言いながらティオの頭を愛おしげにベルゼビュートが撫で始めた。

 その心地よさ、そして彼女の甘い匂いに、ティオは「ふぁ……」と声漏らし、脱力してしまう。


「わ、私も! それなら私も一緒に寝ます! 二人だけなんて許しません!」


 アイリスがベッドに飛び込んでくる。

 そしてそのまま反対側から、ティオを抱きしめる。


 目の前にはベルゼビュートの胸、後ろからはアイリスの胸。

 二人の柔らかな感触に挟まれ、ティオの理性が弾けそうになる……が、なんとか理性で押さえつける。


(うぅ……長い夜になりそうだ……)

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