第13話 魔力駆動型戦闘用モービル『ベヒーモス』

「あ、そういえば、まだもう一つのスキルを使ってないや……」


 迷宮を出たところで、ティオは思い出す。

 ベルゼビュートと彼女のサポートスキルのインパクトが強すぎて、すっかり忘れていたのだ。


「よし、試しに使ってみよう。《ブラックサモン・械》!」


 アイリスとベルゼビュートの了解を得て、ティオが新たに手に入れたEXスキルを発動する。

 ベルゼビュートを召喚した時と同じく、ティオの目の前に巨大な漆黒の魔法陣が描かれた。


 そしてその中から、一つの物体が姿を現す。


 漆黒に輝く装甲と、大型のタイヤを二つ持つ、機械的な物体だった。

 禍々しい姿形をしているが、その形状を見て、すぐにそれが乗り物だとわかる。


【吾輩は、魔力駆動型戦闘用モービル――〝ベヒーモス〟だ。よくぞ呼び出してくれた、マスターよ】


「うわ!」


「しゃ、しゃべった……!?」


 驚いた声を漏らすティオとアイリス。

 目の前の物体から、機械質な声が出たのだ。


【吾輩を呼び出しておいて何を驚いて……む? なんだ、ベルゼビュート嬢も呼び出されていたのか?】


「久しぶりね、ベヒーモス。ちょうど私もさっきマスターに召喚されたのよ」


 目の前の物体――ベヒーモスというらしい――と、ベルゼビュートがそんなやり取りを始める。


「えっと、いったいどういう……」


「あら、勝手に会話を進めてごめんなさいね、マスター。実はこの子、ベヒーモスは昔の知り合いなの」


【ああ、ベルゼビュート嬢とは、大昔に知り合ってな。懐かしいものだ】


 どうやら目の前の物体、ベヒーモスは機械的な見た目をしていながら、意思を持っているようだ。


「あの、まさかとは思うのですが、ベヒーモスさんって、もしかして神話に出てくる神器――〝バイク〟と関係があったりします……?」


【ほう、そこの少女はよく知っているでないか。そう、吾輩の種別名はバイクとも呼ばれている。もともとは異界――〝地球〟の技術で生み出されたのだ】


 アイリスの問いに、ベヒーモスはそう答えた。


 この世界には、異界人が転移・あるいは転生してくることがある。

 その異界の一つに、地球という世界が存在する。


 バイクは地球上でポピュラーな乗り物であり、神話の時代にこの世界でもそれを模したものが作られたとされている。


 話を聞く限りでは、ベヒーモスはそのうちの一機と考えるのが妥当だろうか。


【マスター、名を聞かせてくれ】


「あ、ぼくはティオといいます」


【よし、それではティオ殿。吾輩に跨り、ハンドルを握るのだ】


「ハンドル……これのことですか?」


 ベヒーモスに言われるがまま、そのボディに腰掛け、ハンドルを握るティオ。

 すると、彼の頭の中に、情報が流れてくる。それはこの大型モービル、ベヒーモスを操縦する知識だった。


 ブォン――ッ!


 ハンドルを回すと、ベヒーモスから大きな音が鳴る。

 ベヒーモスの話によると〝エンジン音〟というらしい。


 頭の中に流れてくる情報に従い、操縦手順を踏むティオ。

 するとベヒーモスの巨大なタイヤが回転し、走り出したではないか。


「これは! すごいな、馬車なんかよりも速い!」


【当たり前だ。吾輩が馬車なんぞに負けるわけがなかろう】


 興奮するティオに、面白そうにベヒーモスが答える。


 そのまま円を描くように曲がってみたり、ドリフトやスピンなど、ベヒーモスの乗り心地を楽しんだ。


「ベヒーモスさん」


【吾輩のことはベヒーモスと呼べ。敬語も不要だ。ティオ殿の使い魔だからな】


「ならベヒーモス、君は走ること以外にも何かできたりするの?」


【今はマスターであるティオ殿の力が解放されていないので無理だな。だが、真黒ノ扉がいくつか開かれれば、吾輩は戦闘だってこなせるようになるぞ】


 どうやらベルゼビュートと同じく、EXスキルが解放されれば強化されていくというシステムのようだ。


 ベルゼビュートのサポートスキルでさえ、あのような強力な効果があったのだ。

 戦闘もこなせるというベヒーモスが、どのようなスキルを使えるようになるか、ティオは楽しみで仕方がない。


 ベヒーモスの乗り心地を楽しんだところで、アイリスとベルゼビュートのもとに戻ってくるティオ。


 せっかくだから、このまま二人を後ろに乗せて、都市に戻ろうと提案する。

 ベヒーモスはかなり大型のバイク――もといモービルなので、三人くらい乗せても問題なしだ。


「それではわたしがティオ様の後ろに……」


「ちょっとアイリス、マスターの後ろに乗るのは私よ?」


 ティオの後ろに腰掛けようとしたアイリスの肩に手を置き、ベルゼビュートが言う。


「ふふふ……何を言っているのですか、ベルゼビュートさん。わたしはティオ様の冒険者パートナーですよ?」


「うふふ……そっちこそ何を言っているのかしら? 私はマスターの使い魔、一番近くにいるべき存在よ?」


 アイリスとベルゼビュート――

 何やら二人の視線がぶつかり、バチバチと火花が散り出した。


「え、ちょっ、二人とも……?」


【くくく……っ、今回のマスターも、なかなか苦労しそうだな】


 戸惑った様子のティオに、ベヒーモスは面白そうに笑う。

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