第12話 魔王の加護
迷宮十一層目――
「ハァァァァァァァ――ッ!」
裂帛の声が響き渡る。
それとともに、二つの白銀の輝きが迸る。
『ブモォォォォォォ――!?』
ミノタウロスの悲鳴が鳴り響く。
そんなミノタウロスの両肩から先はなくなっており、断面からおびただしい量の血が噴き出している。
「やっぱり、この力はすごいですね……!」
興奮した声を漏らすアイリス。
剣聖のクラスを持つアイリスでも、スキルなしでミノタウロスの腕を両断するなど、普通であれば難しい。
しかし、ベルゼビュートに授けられた《ベルゼギフト》の恩恵によって、筋力が大幅に向上したことで、そんな芸当も可能になった。
「まさか魔法スキルの威力も向上するなんて……」
アイリスの後方で、そんな声を漏らすティオ。
ベルゼビュートの言っていた通り、全てのステータスが向上していたようだ。
ティオは《ブラックバレット》を数発放っただけで、他のミノタウロスを虫の息にまで追い込んでいた。
「ふふっ、私の力に満足してもらえたようね?」
興奮した二人の様子に、ベルゼビュートが妖艶に笑う。
ティオとアイリスが二人揃って彼女に大きく頷く。
「それじゃあ、二つ目のスキルを使ってあげましょうか」
「あ、そっか、ベルゼビュートさんにはもう一つスキルがあるって言ってましたね!」
「その通りよ、マスター。ちょうどいいところに次の敵が来たようだし、さっそくいくわよ?」
先を見て小さく笑うベルゼビュート。
その視線の先を追うと、岩陰からにさらに一体のミノタウロスが現れたではないか。
ティオたちの姿を見た瞬間、雄叫びを上げてミノタウロスが駆けてくる。
「この者たちに守りの盾を! 《ベルゼプロテクション》!」
ベルゼビュートが叫ぶ。
するとティオとアイリスが放つ漆黒の輝きがさらに強いものへと変わった。
それと同時に、アイリスが前へと飛び出す。
前衛として、後方へと敵を行かせるつもりは毛頭ない。
ミノタウロスが手にした斧を振り下ろしてくる。
アイリスはそれを、左手の短刀で防御しようと振り上げる。
通常であれば力負けして、防御に失敗してしまうとこではあるが、今のアイリスは《ベルゼギフト》の加護があるので、十分に防御することが可能だ。
そしてミノタウロスの斧と、アイリスの短刀がぶつかり合う直前だった……。
パァン――ッ!
と、乾いた音が鳴り響く。
それと同時に、ミノタウロスの斧が弾かれ、あらぬ方向へと飛んでいった。
「これは……まさか魔力の盾ですか!?」
驚愕した声をあげるアイリス。
そう、彼女の前には、魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。
ミノタウロスの攻撃は、この魔法陣に阻まれ無効化されたのだ。
「ふふふっ、私の《ベルゼプロテクション》は、対象者が攻撃されると自動で魔力の盾を展開する守りのスキルよ。中級程度のモンスターの攻撃だったらビクともしないわ」
アイリスの反応を見て、またもや満足げに笑うベルゼビュート。
「自動展開する魔力の盾、とんでもないサポートスキルですね……」
そう言いながら、ティオが前に出る。
後衛がのこのこと前に出てきたのを見て、ミノタウロスが拳を放ってくる。
しかしその直前に、ティオの前にも漆黒の魔法陣が展開し、敵の攻撃を阻んだ。
「《ブラックジャベリン》――!」
自分も《ベルゼプロテクション》の効果を試したところで、ティオがEXスキルを放つ。
漆黒の魔槍がミノタウロスの心臓を貫き、その生命力を全て奪い去った。
「ステータス向上のスキル、さらに強力な魔力盾を自動展開するスキル……支援術士としては最高峰の実力ですね、ベルゼビュートさんは」
「ねぇ、マスター。私はあなたの使い魔よ? 呼び捨てで呼んでほしいのだけど?」
「呼び捨て、ですか?」
「ええ、使い魔的には、さん付けで呼ばれるとむず痒いわ。できれば敬語もよしてちょうだい」
砂金色の髪をかき分けなが言うベルゼビュート。
どうやら使い魔としてのこだわりがあるようだ。
そんな中、アイリスが一つの提案をしてくる。
「ティオ様、この際ですから、彼女にニックネームをつけてあげてはいかがでしょうか? 流石に街中でベルゼビュートの名で呼ぶのは目立ってしまうかと」
「ああ、確かにそうですね。それなら……安直ですが、〝ベル〟というのはいかがでしょうか?」
それにベルゼビュートが――
「ベル……いいわね。それじゃあ、今から私のことはベルって呼んでね、マスター?」
――と、答える。
ティオが提案した呼び名が気に入ったようだ。
「それじゃあ、ベル。改めてこれからよろしくね」
「こちらこそ、マスターのお役に立てるように、精一杯頑張るわ」
◆
迷宮十五層目――
『ブモォォォ……ッ』
唸り声を上げながら、大剣を構える異形が一体。
ミノタウロスの変異種、ミノタウロスナイトだ。
それと対峙するのはアイリス一人だ。
もともと自分が受けた討伐依頼だから、ミノタウロスナイトだけは自分で倒したいと、ティオに願い出たのだ。
「いきます!」
『ブモ……ッ!』
両者とも同時に飛び出した。
アイリスが長刀で刺突を繰り出したのに対し、ミノタウロスナイトは大剣で一文字斬りを放った。
スピードはアイリスの方が速い。
そのままミノタウロスナイトの腹を貫いた。
だが、ミノタウロスナイトの攻撃は止まらない。
そのままアイリスに一文字斬りを叩き込む――はずだったのだが、それは無駄に終わる。
言わずもがな、先ほどベルゼビュートより授かった《ベルゼプロテクション》に弾かれたからだ。
本来であれば、それなりに苦戦する敵だが、さすがは魔王を名乗る者から授けられた恩恵の力である。
「ティオ様、収納をお願いします」
「了解です、アイリスさん」
もちろん死体の回収は忘れない。
EXスキル、《ブラックストレージ》で死体を収納すると、今日のところは迷宮を後にする。
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