第7話 剣姫の告白

「これは……ずいぶんと高級そうな……」


 アイリスに連れてこられた宿屋を見て、思わず声を漏らすティオ。


 目の前の建物は白塗りで、ザ・高級宿と、見るからにわかるような豪華な造りをしている。

 アイリスに手を引っ張られ中に入りエントランスを見渡すと、こちらも外に負けないくらい豪奢に飾られていた。


「お帰りなさいませ、アイリス…………様?」


 執事服のようなものを着た宿のスタッフと思しき男性が近づいてくるも、その途中で首をかしげる。


 その視線はティオと繋がれた手に固定されている。


「ちょうどよかったです。このお方――ティオ様も今日からここに泊まるから案内してください」


「え……は、はい! かしこまりました!」


 すぐに「こちらへ……」と言って、受付の方へとスタッフが案内を始める。


 受付に着くと、宿泊の手続きを進めながら、ティオとアイリスを視線で交互に確認している。


 恐らく、アイリスはこの宿でもギルドと同じように孤高の美少女キャラであり、高嶺の花であったのだろう。


 それが今ではデレデレとした表情を浮かべ、年下の少年に甘えるように密着している。

 対して、少年――ティオの方はアイリスのスキンシップに困惑顔だ。


 孤高の剣姫、そして少女と見間違えるような華奢な少年の間に、この数時間で何があったのだろうか……。


 きっと、このスタッフはそんなことを考えているのだろう。


「それではお部屋に案内いたします」


 そう言って、上の階へとティオたちを連れて移動を始めるスタッフ。

 他のスタッフたちも、アイリスとティオの姿を見て目を見開いている。


 ◆


「うわ、広い部屋……」


 高級そうな調度品がセンス良く配置された部屋を見て、思わず声を漏らすティオ。


「ここなら強者たるティオ様にピッタリだと思います!」


 と、当たり前のようについてきたアイリス。


 案内を終えたスタッフが去っていったところで、ティオがアイリスに切り出す。


「アイリスさん、先ほどの答えを聞かせてもらっていいでしょうか?」


「わたしが何故ティオ様にくっつきたがっているか――ですよね……?」


 再びティオに問われて、恥ずかしそうに頬をピンクに染めるアイリス。

 それにティオが「はい」と答える。


 コクリっ。


 決心したように大きく頷くアイリス。


 そして一言だけ、こう紡ぐ――


「ティオ様が、わたしの初恋のお方だからです」


 ――と……。


「は…………?」


 間の抜けた声を漏らすティオ。


 今、彼女は何と言った? 初恋の相手……? それってつまり……。


 ティオは、ようやくアイリスの言葉を理解し始める。


 そんなティオを、アイリスは恥ずかしそうな……それでいて不安そうな表情で見つめている。


「えっと……もしかして、それはぼくが迷宮で、アイリスさんを助けたからですか?」


「はい……。ティオ様に助けられ、そして優しくされた瞬間、わたしは初めて異性を愛おしく感じました。わたしよりも強いお方。ギルドでわたしは、あなたを侮辱するようなことを言ったのに、それなのに助けてくれて……」


 静かに、ゆっくりと言葉を紡ぎながら、ティオの質問を肯定するアイリス。


 こんなにも可愛らしいエルフの少女に、愛おしいと言われ、ティオは何とも気恥ずかしくなってしまう。


「ティオ様、わたしはあなたに恋をしてしまいました。命を救っていただいたお礼をさせていただけませんか? そして……わたしを、あなたのお側に置いてくださりませんか――?」


 そう言って、アイリスは言葉を締めくくった。


(お側に置いて……それってつまり、恋人にしてほしいってことだよね……?)


 頭の中で言葉の意味を考えるティオ。

 異性からの告白など初めてなので、どうしていいのか戸惑ってしまう。


「ダメ、ですか……?」


 ティオからの返事が遅かったので、断られると思ってしまったのか、アイリスが泣きそうな表情で尋ねてくる。


「な、泣かないでください、アイリスさん! ダメというより、ぼくにはそういった経験がなくて、どうしていいかわからないのです……」


 ティオは素直にそう伝える。


 それを聞いてアイリスは、少しだけほっとした表情を浮かべる。


「そういうことでしたら、まずはお礼からさせていただけませんか? 恩に報いるためなら、なんだってします!」


「お礼……ですか」


 アイリスの言葉に、またもや考え込むティオ。


 別にお礼などいらないのだが、そう言っても彼女は納得してくれなさそうだ……。


 そんな風に考える途中で「そうだ!」と、ティオはとある案を思いつく。


「アイリスさん、ぼくは勇者パーティを追放されてしまいましたが、それでも自分なりのやり方で救世の旅を続けるつもりです。よかったら、ぼくと一緒にパーティを組んでみませんか?」


「ティオ様とパーティを!? よろしいのですか……!?」


「はい。むしろアイリスさんのような腕のある冒険者と組めるなら、願ったり叶ったりです。一緒に行動をともにして、これからのことを決めませんか?」


 今すぐに恋人云々というのは決めかねる。

 だったら、しばらく一緒に行動して、お互いのことを知ろう。

 冒険者活動と救世の旅も捗って一石二鳥……否、三鳥だ。


「ありがとうございます、ティオ様……!」


 嬉しさのあまり、アイリスがティオに、ガバッ! と抱きつく。


 身長差があるのがいけなかった。


 彼女の豊満なバストに、ティオの顔面が埋もれてしまっている。


 言うならば〝強制メロンダイブ〟である。


 柔らかな感触、そして圧迫感での中で、ティオは「んむぅ〜〜〜〜!?」とくぐもった声を漏らす――。

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