第6話 嫉妬……?

「え? こんなにですか……?」


 ギルドの受付カウンターで、ティオが大きく目を見開く。

 その視線の先には、白金に輝く大きめの硬貨が八枚並んでいる。


「もちろんです。レッサードラゴンの皮は武具の素材として高く売れますし、お肉も高級品ですから」


 びっくりした表情を浮かべるティオに、受付嬢がにこやかに答える。


 目の前に並んでいる硬貨。

 それらは白金貨と呼ばれるもので、硬貨の中でもっとも価値が高いものとなる。


 硬貨の種類は全部で5つ。

 銭貨、銅貨、銀貨、金貨、そして白金貨となっている。


 金貨二枚で、大都市で四人家族がひと月暮らしていける。

 そして白金貨はその十倍の価値がある……と言えば、大体の価値はわかってもらえるだろうか。


 ティオは冒険者ではなく、勇者パーティの一員として活動していた。

 なので、モンスターの価値などには疎かった。驚くのも当然かもしれない。


「ティオ様、せっかくですし、冒険者に登録してみてはいかがですか?」


「冒険者か、確かに悪くないかもしれませんね……」


 いまだに腕に絡みつくアイリスの言葉に応えながら、ティオは考える。


 今まで、アイラが率いる勇者パーティに所属していたため、活動資金が母国から払われていた。

 しかし今後、自分なりに救世の旅を続けるのであれば、自分で旅の資金を稼がなければならない。


 冒険者はモンスターの討伐や、モンスターの素材を売って生計を立てる。

 強力なEXスキルという力を手に入れたティオにはもってこいの職業だ。


「では、冒険者の登録をお願いします」


 冒険者登録をすれば、素材の買い取り以外にも、ギルドが発行するクエストを受注できるようになる。


 そして冒険者になった証として〝冒険者タグ〟というものを発行してもらえる。

 これは自分の冒険者ランクを表すものであり、さらには身分証にもなるので手に入れて損はない。


「かしこまりました。それではこちらに必要事項をご記入ください」


 そう言って、受付嬢が羊皮紙を取り出す。

 項目に従って内容を記入し、それを確認したところで、受付嬢が石製の冒険者タグを渡してくる。


「これが冒険者タグか。確かこの色はEランクの証だったけ?」


「その通りです、ティオ様。きっとティオ様の実力があれば、Sランク冒険者になるのも夢ではないでしょう!」


 興奮した様子のアイリス。


 Sランク冒険者とは、六つある冒険者ランクの頂点である。

 ちなみに、冒険者ランクの強さは、以前に説明したモンスターランクと同等とされている。


(確かに、ぼくが思い出せた限りの前世の記憶に従って、EXスキルを極めさえすれば、Sランク冒険者になることもできるかもしれないな)


 アイリスの言葉に、そんなことを思うティオ。

 むしろ自分なりのやり方で救世の旅を続けるならば、いずれはそれくらいの力をつけなければ。


 アイリスに適当に返事をすると、ティオは白金貨を《ブラックストレージ》の中に収納し、ギルドを後にする。


「アイリスさん。宿に戻ろうと思うので、そろそろ離れてくれませんか?」


「えっと……その……あ! ティオ様はどこの宿に泊まってらっしゃるのですか?」


「宿、ですか? 宿屋街の安宿ですが……」


 質問に別の質問で返されてしまったことに、若干戸惑いながら答えを返すティオ。

 アイラたちと一緒の時は、それなりにいい宿に泊まっていたが、追放された日からは節約のために安宿に泊まっていたのだ。


 それを聞いたアイリスが「それはいけません!」と、ティオに、ずいっ! と顔を近づけてくる。


 思わず「……っ!」と、息を漏らすティオ。

 絶世の美少女エルフと呼んでも過言ではないアイリスの顔が、鼻と鼻がぶつかりそうなほどの距離にある。それだけでティオの心臓はバクバクものだ。


「ティオ様のような強者が安宿に泊まるなんてダメです! 品格を疑われてしまいますし、何より安宿では防犯がよくありません!」


 力強く言うアイリス。


 品格どうこうは置いておくとして、防犯面においては「確かに……」と、ティオは頷く。


 レッサードラゴンの死体を買い取ってもらったことで、今のティオはそれなりの金額を所持している。


 お金自体は《ブラックストレージ》に収納してあるから問題ないが、ギルドで受け取る際に、たくさんの冒険者に見られていた。


 冒険者の中には素行の悪いものも多く、犯罪者すれすれな人物だって存在する。

 あの場にいた冒険者たちには、ティオの強さは伝わっていない。


 底辺職の黒魔術士が大金を持っているとなれば、何かしらの方法で狙ってくる……かもしれない。


 そんな心配をしながら安宿に泊まるよりは、防犯がしっかりした、それなりの宿に泊まる方がはるかに精神衛生上いいに決まっている。


「それなら! わたしが良い宿を知っています、ついてきてください!」


 ティオの腕を引っ張って歩き始めるアイリス。


「ち、ちょっと……!?」


 ティオは戸惑いながらも、結局アイリスの押しの強さに負けて、ついていくことになる。


 その途中であった――


「ティオ……?」


 ――ティオの耳に、そんな声が聞こえてきた。


 声のした方を見ると、そこには女勇者アイラとルシウスが立っていた。


 そして彼女たちの側には馬車が停まっている。


 ティオは思い出す。

 今日、アイラの率いる勇者パーティが、この都市を旅立つ予定になっていたことを――


「アイラ……」


 思わず彼女の名を呼び返すティオ。


 そんな二人を、ルシウスが面白くなさそうに見ている。


「ティオ様! ティオ様を追放した女なんて放っておきましょう!」


 アイラを睨みながら、グイグイとティオの腕を引っ張って、アイリスが歩き始める。


「ち、ちょっと、アイリスさん……!? じゃ、じゃあね、アイラ! 救世の旅、頑張って!」


 美少女エルフに密着され、アタフタしながら去っていくティオ。


 そんな二人をアイラは――


「む〜〜〜〜っっ!」


 ――と、なぜか涙目になりながら、ほっぺを膨らませて見送ることとなる。

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