第8章 5 潜伏者達
リヒャルトが『ベルンヘル』の2人の警察官…リカルドとジャックと共に故郷である『リムネー』に戻り1週間が経過していた。そして彼等はヴィクトールとグスタフと共にホテルに潜伏していた。
コンコン
ホテルのスイートルームの扉がノックされた。
「…誰ですか?」
「私です、リカルドですよ」
ガチャ…
扉を開けたのはヴィクトールだった。
「ご苦労様でした。それで…どうでしたか?」
「ええ。相変わらず浪費が激しそうですね。あの母娘は…」
付け髭とかつらを外し、カバンを床に下ろすとリカルドは言った。
「怪しい人物はいませんでしたか?」
ソファに座ったリカルドの向かい側の席に座るとグスタフが尋ねた。
「いえ、今の所怪しげな人物と接触してる気配はないですね」
リカルドの言葉に今迄黙ってソファに座って彼等の会話を聞いていたリヒャルトが口を開いた。
「それで…ジャックさんの方はどうでしたか?今現在フットマンとしてあの屋敷に潜伏しているのですよね?」
「ええ、定期的に連絡は取り合っていますよ。彼の話ではかなりアグネスは苛ついて使用人達に当たり散らしているみたいですね。おまけに娘のエーリカは若い使用人たちに次々と手を出しているそうで、ジャックも迫られて困っているらしいですよ」
リカルドの言葉にヴィクトールは苦笑しながら言った。
「彼は変装しても男前ですからね」
「所でレナート副署長からは何か連絡は入ったのですか?」
リヒャルトが不安げにリカルドに尋ねた。
「昨夜連絡が入りました。今署長の周辺を洗っているようです。しかしかなり警戒しているのか、なかなか動きを見せないと言ってましたよ。恐らく…」
「私の行方が分からなくなった…からでしょうね?」
「ええ、そうです。恐らくアグネスとエーリカの元にも連絡が入っているでしょうね。ああ…ありがとうございます」
話をしていたリカルドの前にグスタフがカップに淹れたコーヒーを目の前のテーブルに置いてくれたのだ。
「ですが、もうかれこれこのホテルに潜伏してから1週間ほど経過していますがアグネスに動きが無いとするとどうすればいのでしょう?このまま待っていても事が進展するとは思えないのですが…」
グスタフが考え込むように言う。
「ええ。その事でレナート副署長と話をしたのですが…こちらで餌を撒いてみようかと思います。うまくいけばアグネスと署長の関係を暴き、彼等を一網打尽に出来るかもしれません」
リカルドの目が光った。
「それは…どのような方法ですか?」
リヒャルトはリカルドに尋ねた。
「…これですよ」
リカルドが足元に置いたカバンを引き寄せ、中から1通の白い封筒を取り出した。
「それは何ですか?」
グスタフが覗き込んできた。
「これはオペラ鑑賞の招待券ですよ」
リカルドが笑みを浮かべながら言う。
「オペラ?」
リヒャルトは首を傾げる。
「この中には2枚のオペラ鑑賞の招待券が入っています。開催日は3日後の18時からです。アグネスとエーリカはオペラ鑑賞に目がないらしいですよ。…それにしても苦労しましたよ。何しろ人気の作品でしたからね」
リカルドは大事そうに封筒をしまった。
「あ…それではひょっとすると…」
ヴィクトールが手をポンと叩いた。
「ええ、そうです。3日後、あの屋敷からアグネスとエーリカは屋敷からいなくなります。」
「その隙に我らが屋敷に潜入するというわけですね?」
グスタフが興奮気味に言う。
「ええ、手引はジャックがします。他の使用人たちは全員外部から派遣されている使用人たちばかりだったのでこちらに引き込むのは容易だったそうですよ」
リカルドの言葉にリヒャルトは頷いた。
「…あの屋敷の事なら全て把握しています。」
「あまり早く帰ってこられても困りますね…。そうだ、オペラ鑑賞の後レストランに招待してみてはいかがですか?幸い、ここ『リムネ−』には腕利きの料理人がいるのですよ」
グスタフが笑みを浮かべながら言った。
その料理人とは…言うまでも無かった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます