第8章 6 ジミーと2人の執事

 レストラン『ノスティモ』。ジミーはここで第二シェフとして働いていた。


午後3時になり、丁度店内が閑散な時間帯に突入した時…。


「ジミー、お客様がお呼びだ」


ウェイターの男性が野菜を刻んでいたジミーの元へやってきた。


「お客…俺に?」


「ああ、デザートが美味しかったから是非直接会って礼を言いたいそうだ。来てくれるか?」


「分った。行くよ」


ジミーはウェイターの後に続いてホールに向かった。


「ほら、あそこの3番テーブルのお客様だ」


ウェイターの言葉に、3番テーブルを見たジミーは言葉を無くした。


「…!」


「どうかしたのか?」


隣に立つウェイターが不思議そうな顔でジミーを見る。


「あ…な、何でもない。では挨拶してくるよ」


ジミーは白い帽子を外すと3番テーブルへ向かった。





ジミーに会いに来ていたのはグスタフであった。


「久しぶり、元気だったか?ジミー」


彼はジミーを見ると懐かし気に目を細めた。


「ええ、元気でした。グスタフ様もお変わりありませんでしたか?」


「ああ、まあな」


グスタフはコーヒーを飲みながら曖昧に返事をする。


「…よく俺がここに勤めていると分りましたね?」


「アーベルに聞いたんだよ」


「アーベル様にですか…」


「今仕事中だろうから手短に話す。ジミー、仕事は何時までだ?」


「今夜は20時までです。21時には店を出ます」


「そうか、なら今夜21時半に駅前のホテルのフロントに来てくれるか?大事な話があるんだ。来れるか?」


「ええ、勿論大丈夫です」


「そうか。なら良かった」


グスタフはそれだけ言うと立ち上がった。


「…おかえりになるのですか?」


「ああ、今…色々忙しくてな。それじゃまた」


グスタフはお金をテーブルの上に置くと、店を後にした―。




 店を出たグスタフは腕時計を見た。


「まだ時間はあるな」


そして歩き始めた時、どこから強い視線を感じ取った。


「!」


足を止めたグスタフはキョロキョロと辺りを見渡すが、別に怪しい人影は見当たらない。


「…気のせいだったか?」


そしてグスタフは町の中を歩き始めた。自分をじっと見つめている、その怪しい視線に気付く事も無く…。




****


 21時半―


ジミーは言われた通りに駅前ホテルのフロントに来ていた。フロントには20名ほどの人々がソファに座り歓談していた。


その時―


「待たせたな。ジミー」


すぐ背後で声が聞こえ、振り向くとそこには笑みをたたえたヴィクトールが立っていた。


「あ…ヴィクトール様ではありませんか!」


すると咄嗟にヴィクトールは人差し指を口の前で立てると小声で言った。


「あまり大きな声を出さないでくれ。念には念を入れておかないとならないからな。…ついてきてくれ」


「はい」


ジミーは大人しくヴィクトールの後をついて行った。




「…」


新聞を読んでいた人物がバサリとテーブルの上に置くと、口元に笑みを浮かべ、ポツリと呟いた。


「間違いない…」


そしてゆっくり立ちあがると2人の後を付けて行った。



チン


エレベーターがスイートルムのある7階で止ると、ヴィクトールとジミーはエレベーターを降りたった。


「このホテルに…リヒャルト様がいるんだ」


ようやくヴィクトールはリヒャルトの事を口にした。


「え?そ、そうなのですか?!」


「詳しい事は中で話そう」


そしてヴィクトールは、目の前のスイートルームの扉をノックした―。



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