母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第6章 4 推理

「アグネス…ッ！」

グスタフは憎々しげな顔でその写真に映り込むアグネスを見た。グスタフの脇から写真を眺めていたヴィクトールが言う。

「この写真の女か？リヒャルト様の妻になってシュバルツ家に娘と共に入り込んできた人間は…」

ヴィクトールが尋ねた。

「ああ、そうだ。この女のせいで…シュバルツ家は…崩壊させられてしまった！そしてスカーレット様まで…っ！」

グスタフの言葉に、それまで虚ろな瞳で椅子に座って窓の外を眺めていたリヒャルトが頭を押さえて苦しげにうめき出した。

「うう…うっ…」

「リヒャルト様っ？！どうしたのですかっ？！」

突然苦しみ始めたリヒャルトを見て、ヴィクトールが慌てて駆け寄って声を掛けた。

「うううう…あぁ…」

ハアハアと荒い息を吐きながら頭を抱えて苦しむリヒャルトの口から、初めて意味のある言葉が漏れた。

「ス…スカーレット…」

「えっ？！」

ヴィクトールはその言葉を聞き漏らさなかった。

「リヒャルト様、スカーレット様の事が分かるのですかっ？！」

「あ…ス、スカーレット…」

「そうです、リヒャルト様。スカーレット様は…貴方の大切な一人娘ですっ！」

グスタフもリヒャルトに駆け寄ると言った。

「スカーレット…」

リヒャルトの虚ろな目に涙が浮かび…そのまま椅子の上で気を失ってしまった。

「リヒャルト様っ？！」

「しっかりして下さいっ！」

グスタフとヴィクトールが交互に声を掛けるも、リヒャルトは目を覚まさない。

「「…」」

グスタフとヴィクトールは2人で目を合わせると言った。

「「ベッドにお運びしよう」」

＊＊＊＊

ベッドの上ではリヒャルトが眠っている。そして部屋に置かれたソファに3人の男たちは膝を突き合わせて座っていた。

「スカーレット様の名を聞いて…反応されたな」

ヴィクトールはベッドで眠っているリヒャルトをチラリと見ると言った。

「ああ、確かに。やはり心が壊れてしまっても娘の事は覚えていた様だな」

リーの言葉をグスタフが咎めた。

「おい、リー。勝手にリヒャルト様の心が壊れた等と決めつけるな。まだそんな事は分らないだろう？」

「どっちにしろ、スカーレット様とリヒャルト様を引き合わせる必要があるな…」

ヴィクトールが両手を組んで顎を乗せると言った。

「ああ、その通りだ。名前を聞いただけであんなに反応したんだ。きっとスカーレット様に会えば正気に戻るかもしれない」

グスタフが頷く。

「それで、そのスカーレットって言う御令嬢は今どこにいるんだい？」

リーの言葉にグスタフが答えた。

「スカーレット様は『ミュゼ』と言う都市に住む『チェスター』家で住み込みの家庭教師をしておられる」

「すぐに手紙を出したほうが良いかもしれないな。それまでに絶対に警察にはリヒャルト様の事はばれないように匿っていた方が良い」

ヴィクトールの言葉にグスタフが尋ねた。

「何故だ？何故リヒャルト様の存在をばれないようにしなければならない？」

「それはな、恐らく運河で死んだのはこの界隈に住んでいた浮浪者の可能性が大なんだ。その男は…きっとあの貴族の身代わりに殺されて運河に捨てられたんじゃないか？そして警察はろくに鑑定もせずに着ている服だけでリヒャルトは死んだとして

ろくに調べもせずに、身元確認すらさせずに警察が管理する墓場に埋めてしまったのだろう。つまり、警察とこの女は…グルだって事だ」

ピンとアグネスが映る写真を指ではじきながらリーが言った―。