第4章 3 王宮からの手紙

 アリオスを交えての夕食会の翌日―。


カールと授業の合間の休憩を取っていた時の事だった。


「これ…スカーレット様が焼いたクッキーですか?」


カールはカゴの中に入っているクッキーをつまみながら目を丸くした。


「はい、そうです。紅茶の茶葉が入ったクッキーなんです。実は実家で暮らしていた時、幼馴染の男性が厨房で働いていたんです。その彼からお菓子作りを習っていたのですよ。是非私の焼いたクッキーをカール様に召し上がって頂きたくて」


スカーレットは笑顔で言った。


「とっても美味しいです!僕、このクッキー好きになりました」


カールはクッキーを頬張りながら紅茶を飲んだ。


「そうですか。それは良かったです。カール様にこんなに喜んでもらえるなんて」


「あ、あの…スカーレット様。お聞きしたいことがあるのですが…」


「何ですか?カール様」


「そ、その幼馴染の男性って…スカーレット様の好きな人だったのでしょうか…?」


「え?カール様?」


見ると、カールは顔を赤らめて下を向いている。


「僕…聞いたんです。スカーレット様とアリオス兄様が…こ、婚約したって。」


「え?ええ。そうですね」


(そうだったわ…この婚約は1年間の仮の婚約だからカール様には黙っていたのだっけ…)


「ひょっとして…まだその男性の事をスカーレット様は好きなのでしょうか?だけど、その人とはうまくいかなくて、それでお兄様と婚約したのですか?」


「え?!」


スカーレットはあまりにも突然のカールの言葉に驚いてしまった。


「…」


しかし、カールは黙って俯いたままである。


「カール様、何故そんな風に思ったのですか?」


「婚約したのにお祝いをしないからです…だからおめでたい話じゃないのかと思って」


「そんな事ありません。とてもおめでたい話です。婚約のお祝いが旅行なのですよ?だからアリオス様は私の実家を旅行先に選んで下さったのです」


「え?!そうだったのですか?!す、すみません。僕1人で勝手に勘違いしてしまっていました。でも…安心しました。スカーレット様が僕のお姉さまになってくれるなんて」


「カール様…そんなふうに言っていただけるなんて嬉しいです。ありがとうございます」


スカーレットは笑顔で答える一方、胸を痛めていた。


(どうしよう…もし、これが仮の婚約で1年後には解消する事を知った時、カール様はどんな風に思うのかしら…)


笑顔でクッキーを食べているカールにとてもではないが本当の事をスカーレットは告げられなかった。


その時


コンコン


扉がノックされる音と同時にブリジットの声が聞こえた。


「スカーレット様、今よろしいでしょうか?」


「ええ、どうぞ。入って?」


「失礼致します」


ブリジットが扉を開けて中へ入ってきた。


「スカーレット様、お手紙が届いているのですが…」


「え?私に?もしかしてアーベルからかしら?」


「い、いえ…それが王宮からのようなのです」


ブリジットは困惑したように手紙をスカーレットに手渡してきた。するとその手紙には赤い封蝋がしてある。カールもその封筒を見て眉をしかめた。


「この封蝋の紋章…確かに王族の印ですね」


「どうして王宮から私宛に手紙が…?」


スカーレットは戸惑いながら封筒を返し、差出人の名前を見て息を飲んだ。


そこに記されていた名前はヴァイオレットのものだった―。

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