第3章 24 帰りの馬車の中で

「ま、待って!アリオス様。私が悪かったわ。折角久しぶりに会えたのに、もうお帰りになるなんて言わないで!」


しかし、アリオスはヴァイオレットに毅然とした態度で言った。


「失礼致します」


アリオスは頭を下げるとスカーレットの手を引いて足早に立ち去って行く。


「お、おい!アリオス!」


アイザック皇子の呼び止める声も聞かずに…。



 

****


 ざわめくパーティー会場をスカーレットはアリオスに手を引かれながら尋ねた。


「あ、あの。アリオス様、本当によろしかったのですか?」


「ああ、構うことはない」


アリオスはスカーレットの方を振り向くことも無く、出口目指してあるき続ける。

しかし、そこへスティーブが立ちはだかった。


「アリオス、どこへ行っていたんだ?ずっとお前の事を探していたんだぞ?」


「スティーブ…先程の連れの女性はどうした?」


アリオスはスティーブが連れていたヘイゼル・サリバンの姿が見えないので眉をしかめた。すると彼は笑いながら言った。


「ああ、彼女ならほら。あそこにいるよ」


スティーブが視線を送った先には複数人の男性に囲まれながら談笑するヘイゼルの姿があった。


「いいのか?お前の連れだろう?」


「ああ、いいのさ。別に気にすることはない。俺たちは単にこのパーティーに参加する為だけの関係だからな?それでアリオスと…」


スカーレットはスティーブの視線が自分を向いていることに気が付いた。


「スカーレットです」


「そうそう、スカーレットだ。2人はどこへ行ってたんだ?」


「…」


しかしアリオスは黙ったまま答えない。


「ならスカーレットに聞こうかな?」


どこか含みを持たせた笑みを見せながらスティーブはスカーレットを見た。その視線にスカーレットはビクリとした。なんとなくその瞳がかつての婚約者、アンドレアを彷彿とさせてしまったからである。スカーレットのその様子に気づいたのかアリオスがスティーブの前に立つと言った。


「アイザック皇子とヴァイオレット皇女に呼ばれていたんだ」


「え…?あ、そうか。皇子と皇女に会っていたのか」


途端にスティーブの様子に少し変化が見られた。


「ああ、そうだ。分かったならもういいだろう?」


アリオスは相変わらず棘のある言い方をする。


「ああ、引き止めて悪かったな。スカーレット。君もね」


「い、いえ…」


スカーレットは頭を下げた。


「よし、では帰ろう」


アリオスは再びスカーレットの手を握りしめると、足早に会場を後にした。




****


 スカーレットとアリオスは向かい合わせに馬車に座っていた。そして馬車が走りだすとすぐにアリオスが口を開いた。


「スカーレット、今夜はすまなかった」


「え…?何がですか?」


「いや、君にパーティーを楽しんでもらうどころか…かえって嫌な目に合わせてしまったからな」


「いえ、十分パーティーの雰囲気を味わうことが出来たので私は満足しています」


スカーレットは素直な気持ちを述べた。


「そうか…。でもヴァイオレット皇女に嫌な気分にさせられてしまっただろう?」



「あ、それは…」


「スカーレット。君にはこれから1年間婚約者のフリをしてもらうからな。俺の事情を話しておかなければな」


アリオスはスカーレットを見つめた―。

 

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