第3章 25 アリオスの傷
「俺とヴァイオレット皇女は3年前までは恋人同士だったんだ。あの頃アイザック皇子とは親友同士で、それがきっかけで交際するようになったのだ。だが彼女はなかなか恋に奔放な女性で…さっき、スカーレットも会ったスティーブと言う男がいただろう?」
「ええ、先程お会いしましたね」
「俺を通して2人は知り合いになって…気づいたときには2人は影で交際していたんだ。ヴァイオレット皇女はスティーブを愛してしまって、結局…俺は彼女と別れることになった。スティーブは女に手が早い男で、初めの頃は相手が皇女だと知らなかったのだ。それで身分を知った時に、驚いて…スティーブは彼女に土下座して謝罪したらしい。結局彼に取っては皇女も遊び相手に他ならなかったんだな。その直後だ。皇女に縁談が他国から持ち込まれたのだ」
スカーレットは黙って聞いていた。
「しかし、その縁談の話は無くなってしまった。これは後から知った話だが、皇女は俺以外にも様々な男と付き合っていたらしい。結局相手側から縁談を断られたんだ。それ以来、ヴァイオレット皇女には縁談の話がやってこなくなった。だから今、頻繁に王家ではパーティーが開催されている」
「え…?それでは…?」
「ああ、ヴァイオレット皇女の結婚相手を探すためにパーティーを開いているのさ。名目上はそれではないが…なので未婚の若い男女が呼ばれて参加している。俺はもう二度とヴァイオレット皇女に会いたくはなかったのでずっと出席を断っていたのだ が…今回はアイザック皇子からの直々の些細で断りきれなかったのだ。」
「そうだったのですか…」
「すまない、スカーレット」
突然アリオスは頭を下げてきた。
「俺は君に嘘をついた。王宮では俺がいつまでも1人でいることを気にかけ、そこで独身の貴族令嬢達を集めて、その中から俺の妻を選ぼうとしていると話したが…本当の理由はそうじゃない。チェスター家の当主として…過去に女性に捨てられた過去を君に知られたくなかったんだ。情けない話だが…。ヴァイオレット皇女に会っても平静を保とうとしていたのに、まさかあの場で彼女があんな事を言うとは思わなかった」
「アリオス様…。辛い過去の事なのにお話して頂きありがとございます。」
スカーレットは頭を下げた。
「だから安心してくれ、スカーレット。俺はもう恋愛には懲り懲りだ。だから婚約者のふりをするのは2人で公の場に呼ばれて参加するときだけで構わないし、期間も1年でいい。ヴァイオレット皇女も、もう22歳なのだ。いつまでも結婚相手が決まらないのは流石にまずい年齢になっている。おそらく俺が君と婚約している事実を知れば、王宮からの誘いも減るだろう。どうやらアイザック皇子は俺とヴァイオレット皇女が結婚することを望んでいたようだが…俺にはもうその意志はないからな」
アリオスは一旦言葉を切ると言った。
「それに…スカーレット。君も俺と同じ、異性に対して心に傷を負っているのだろう?」
アリオスの言葉にスカーレットの脳裏にアンドレアの姿が思い出された。
「はい、そうです」
「俺も君も恋愛する気は無いという点でも仮りの婚約者を演じるには良い相手だと思う。これらの事情を踏まえた上で…改めてよろしく頼む」
アリオスはスカーレットに頭を下げた。
「はい、こちらこそ宜しくお願いします」
こうして、互いに心に傷を抱えた2人の1年間限定婚約関係が始まった―。
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