第3章 16 始めてのパーティードレス

「初めまして。私はチェスター家の方々からずっと御贔屓にさせて頂いております仕立て屋のエレナと申します」


アリオスに案内されて連れて来られのは客室だった。エレナは紫色の上下の品の良いジャケットドレスを着用していた。年齢はスカーレットより10歳は上に見える。


「初めまして、スカーレット・シュバルツと申します」


スカーレットも挨拶をする。


「彼女はここ『ミュゼ』では有名な服飾デザイナーなのだ。彼女がデザインするドレスは人気でまさに流行の最先端をいっているのだ」


アリオスが説明してくれた。


「そんな、アリオス侯爵様。いくらなんでも褒め過ぎですわ。それにしても侯爵様が

女性にドレスをプレゼントするのは初めての事ですわね。」


「え?」


その言葉にスカーレットは首を傾げた。


「エレナ、余計な話はしないで良い」


ゴホンと咳払いしつつ、アリオスは言う。


「君はスカーレットの為にドレスを選んでくれればそれで良いのだ」


「はい、かしこまりました。あまりお時間もありませんのでとりあえず10着程ドレスをおもちしました。」


そして足元に置いてある衣装ケースからドレスを次々と出してゆき、ハンガーで壁にぶら下げてゆく。持ってきたドレス10着を全てハンガーに吊るすとスカーレットに向き直った。


「さあ、いかがでしょうか?スカーレット様。どれかお気に召したドレスはありますか?」


「え、ええ。それでは拝見させて頂きます」


スカーレットは壁にぶら下げられたドレスの前に立ち、じっくりと見た。


(何て美しいドレスばかりなのかしら…)


エレナが持ってきたドレスはカラーバリエーションが豊富だった。水色や赤、オレンジ色に黄色のドレス…どれもが美しい光沢のあるサテン生地にアクセントとしてドレスや袖部分にオーガンジーやシフォン生地があしらわれている。そして特徴的なのがそのデザインだった。アリオスに事前に何か言い含められていたのだろうか。それらのドレスはどれもが胸元部分や袖部分の露出が極めて低いデザインとなっている。


(きっと…男性恐怖症で、人の目を気にする私を気遣って、肌が見えにくいドレスを選んできてもらったのかしら…)


スカーレットはドレスを手に取りながら思った。そして1着ずつ、じっくりみてまわるとついに決めた。


「ドレス、決まりました。こちらが良いのですが…」


スカーレットが選んだドレスは淡いグリーンのドレスで、裾がたっぷり広がったデザインだった。スカート部分はオーガンジー生地の2枚仕立てになっており、上半身部分にはスパンコールが縫い付けられている。襟もとはぴっちり覆われ袖は肘部分まであるのが特徴だった。


「それでは早速試着してみましょうか?」


エレナは客室に設置してある控室に連れて行き、早速鮮やかな手値付きでスカーレットの着がえを手伝いながら尋ねてきた。


「スカーレット様は侯爵様の恋人でいらっしゃるのですか?」


「え?!ま、まさか!私はアリオス様の弟君の家庭教師に雇われてるにすぎませんから!」


スカーレットは慌てて首を振った。


「まあ、そうなのですか…スカーレット様はとてもお美しい方でいらっしゃいますから、てっきり恋人だと思っておりました」


「いいえ、違います。アリオス様はパーティー会場で女性が近付いて来れないように私をパートナーに選ばれたに過ぎませんし、ドレスをプレゼントして下さったのも私が1着もドレスを持っていないからなのです」


「なるほど…そう言う事にしておきましょう、はい。ドレスの着替え完了です。良くお似合いですよ」


エレナに言われた通り、そのドレスは本当に良くスカーレットに似合っていた―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る