第3章 17 アリオスの申し出
それから瞬く間に時は流れ、本日は王宮で行われるパーティーの日となった。
午後6時―
スカーレットの部屋にノックの音が響き渡った。
メイド達の手によって、美しいドレスに身を包んだスカーレットの元をアリオスが迎えにやってきたのだ。
カチャリ
スカーレットが扉を開けると、そこにはいつもとは違う濃紺の燕尾服に身を包んだアリオスがそこに立っていた。そしてドレス姿のスカーレットを見ると目を細めた。
「スカーレット。ドレス姿の君を見るのは始めてだが…うん、すごくよく似合っている。」
「あ、ありがとうございます…アリオス様」
美しいアリオスに褒められ、スカーレットはお世辞でも嬉しいと思ってしまった。
「では行こうか?」
アリオスに左腕を差し出される。
「…」
スカーレットは少し躊躇しながらも、アリオスの腕をそっと取る。そして2人は腕を組んでエントランスへ向かうと、そこには大勢のメイドやフットマン達が見送りに出ていた。全員。恭しく頭を下げている。
そのまま2人は彼らに見守られながら大きな扉へ向かうとフットマンが扉を開けると言った。
「どうぞお進み下さい」
アリオスにエスコーとされながら外へ出ると既にそこには2頭立ての純白な馬車が用意されていた。純白の馬車は金の縁取りがされ、それは美しい乗り物だった。
また、御者も黒のスーツを上品に着こなしている。
御者の男性は馬車のドアを開けると2人に言う。
「どうぞ、お乗りくださいませ」
「よし、乗ろうか?」
「はい」
スカーレットはアリオスのエスコートで馬車に乗り込むと扉が閉じられた。そしてゆっくりと馬車は走り出した。
2人で向かい合わせに椅子に座るとスカーレットは尋ねた。
「あの、レイヤー男爵夫妻はどうされたのでしょう?お姿を見ませんでしたが?」
「ああ、あの2人ならもう先に王宮へ向かっている」
「そうなのですね?」
「ああ。ところで…スカーレットに話しておきたい事がある」
「はい、何でしょうか?」
「実は、俺は君を婚約者として皆の前で紹介するつもりなのだ」
「え?!」
スカーレットはあまりにも唐突な話で驚いてしまった。
「いきなりこんな話をして本当に申し訳ない」
アリオスは頭を下げたが、スカーレットには到底受け入れられる話では無かった。
「お待ち下さい、アリオス様。私はただのカール様の家庭教師に過ぎません。それをいきなり婚約者だなどと…!」
「ああ、無理を承知で言ってるんだ。正直に言えば…俺は誰とも結婚する気は無いのだ。それなのに周囲は躍起になって色々な縁談は無しを持ってくるし、あちこちからパーティーの誘いが来ている。だが今、俺は非常に忙しい。縁談話やパーティーの話は、はっきり言って迷惑でしかない。そんなものにかまけている暇があるなら仕事に専念したい」
「そうなのですか?」
「ああ、だからスカーレットがカールの家庭教師を務めている間…仮の婚約者になってもらいたいのだ。頼む。だが…もし、仮にスカーレットに良い男性が現れた際には遠慮なく言ってくれ。婚約は破棄したと皆に報告する。婚約期間は長くても1年。その時には仕事も落ち着くだろう。そうすれば婚約は破棄にする。勿論その時は君の名誉に傷がつかないように配慮はする」
アリオスは再び頭を下げてきた―。
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