第3章 12 晩餐会の準備
午後4時―
カールとの勉強会が終わり、スカーレットは自室に戻って翻訳の仕事をしていた。
コンコン
ノックの音がして、扉の外から女性の声が聞こえた。
「スカーレット様、少々お時間いただけないでしょうか?」
(あら、誰かしら…?)
訝しみながらもスカーレットが扉を開けるとそこに立っていたのはチェスター家に仕えるメイドだった。
「あ、あの…?」
するとメイドは言った。
「恐れ入ります。私は本日付でスカーレット様のメイドに任命されたリズと申します。どうぞよろしくお願い致します。早速本日晩餐会で着られるドレスをお持ち致しましたので、ご試着願います。」
「え?私のメイドに?それにドレスって一体?」
スカーレットは突然の話の展開に驚いてしまった。
「はい、侯爵様より仰せ使いました。中へ入ってもよろしいでしょうか?」
よく見るとリズと名乗ったメイドの足元には台車があり、そこには大きな箱が乗せられている。
「は、はい…どうぞ」
戸惑いながらもスカーレットはリズを中に招き入れた。アリオスからの命令ならば断ることなど出来ないからだ。
「失礼致します」
リズは台車を押して部屋の中へと入って来ると、早速箱の蓋を外した。
「まあ…!」
スカーレットは目を見張った。そこには美しいシルクのロイヤルブルーのイブニングドレスが出てきたからだ。カシュクール式のロングドレスの胸元には同系色の布地で作られたバラの飾りで覆われている。
貴族令嬢でありながら、一度もドレスに袖を通した事がないスカーレットは見事なドレスに目を見張ってしまった。
「こちらはカシュクールドレスなので、ある程度のサイズに対応しております。恐らくお直しせずとも着用することが出来るデザインになっております」
リズは言いながらドレスをスカーレットにあてがってみると笑みを浮かべた。
「やはりよくお似合いですね。アリオス様が直接選ばれただけの事はあります」
「え?アリオス様が?」
「ええ、正装用のドレスが無いとうお話をセオドア様が耳にされ…その話がアリオス様に報告されました。そこで至急アリオス様が御用達の洋品店を呼んで、こちらのドレスを選ばれたのです」
「アリオス様が…」
スカーレットは思わず顔が赤くなってしまった。
(きっと私がワンピースで出席しようとした事を知って、慌てて屋敷に呼んだのね。そうよね…仮にも侯爵家にお世話になっている人間が晩餐会にワンピース姿で現れれば、アリオス様に恥をかかせてしまっていたものね)
「そうでしたか、それはアリオス様にご迷惑をかけてしまいかねないものね?」
「そのような意図でアリオス様はドレスをご用意されたのではないと思いますが…それでは支度を始めさせて下さい」
メイドの言葉にスカーレットは頷いた―。」
****
17時半―
「いかがでしょうか?スカーレット様」
ドレッサーの前に座るスカーレットにリズが声を掛けてきた。
「え、ええ…とても自分とは思えないくらいだわ…」
スカーレットは鏡に映る自分を信じられない思いで見つめていた。元々スカーレットは美しい女性だったが、普段とは全く違うドレスにメイク、髪型のお陰でいつもの数倍魅力的な美女に生まれ変わっていた。そしてアリオスの選んだドレスだにはボレロが着いており、胸元が隠れるようになっていたのだ。
(アリオス様…ここまで気を使って下さったのね…ありがとうございます)
スカーレットは心の中でアリオスに感謝を述べるのだった―。
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