母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第3章 11 晩餐会への誘い

「そのシュバルツ家の領地へ行くのは急がなければならないだろうか？」

アリオスはスカーレットとブリジットを交互に見つめながら尋ねた。

「急ぎと言うほどではありませんが…」

スカーレットの言葉にアリオスが言った。

「それならすまないが、行くのを10日程先延ばしにしてもらうことは可能だろうか？」

「ええ、それは勿論構いませんが…どうかされましたか？」

「ああ、実はピクニックに適した場所ならカールを連れて行ってあげたいと思ったのだ。」

「まあ、カール様をですか？でも確かにあの公園や湖はとても素晴らしい場所なのできっと喜んでくださると思います。ですが、何故10日先に…？」

スカーレットが首を傾げて尋ねるとアリオスが言った。

「ああ、スカーレットとブリジットの２人だけにカールを任せるのは申し訳ないから俺もついていこうかと思ってな。ただ、1週間後に王宮で開催されるパーティーにどうしても参加しなくてはならないのだ。だから出かけるならパーティー終了後にしてもらいたいと思ってな。」

「そうですか、分かりました。私の方は構いません」

「ああ。悪いな、先延ばしにさせてしまって。下がっていいぞ」

「はい、それでは失礼致します」

そしてスカーレットとブリジットは退出した。その姿を見送ったアリオスは再び王宮からの招待状を見て、ハッとなった。

「そうだ…その手があったかっ！」

そして呟いた。

「しかし、彼女が何と言うかな…」

アリオスは招待状を手に取り、頭を押さえるのだった―。

＊＊＊＊

　その日の夕食時の事だった。突然スカーレットはアリオスに晩餐会の誘いを受けたのだ。それは突然の出来事だった。カールと2人で互いに読書をしている時、不意に扉がノックされた。

「スカーレット様、私が出ます」

同じ部屋で縫い物をしていたブリジットが立ち上がり、扉を開けた。するとそこには執事を務めるセオドアが立っていた。

「まあ…セオドア様ではありませんか」

「はい、実はスカーレット様に直々にお話がございまして伺いました」

セオドアは頭を下げた。するとブリジットのセオドアと呼ぶ名前を聞いてスカーレットは立ち上がると声をかけた。

「セオドア様、どうぞお入りになって下さい。今は授業中ではありませんから」

「はい、では失礼致します」

セオドアは中に入るとスカーレットに言った。

「スカーレット様、アリオス様からの伝言でございます。本日、カール様とご一緒にレイヤー男爵夫妻とささやかな晩餐会を開きたいのでレセプションルームへ本日午後6時にお越し下さいとの事です。そしてブリジット様はアーベル様と食事会の席を設けられるそうです」

「まあ、私にまでお気遣い頂きありがたいことです」

ブリジットは頭を下げた。

「すごい！レセプションルームへ招待なんて！」

カールは嬉しそうに言う。

「カール様、そのお部屋はそんなに素晴らしいものなのですか？」

スカーレットが尋ねるとカールは興奮気味に頷く。

「ええ、勿論です。僕だってまだ数回しか入った事がない部屋です。でもレセプションルームなら正装していかないと駄目ですね」

「正装…ですか」

スカーレットは困ってしまった。何故なら彼女はドレスの類を1着も持っていなかったからだ。シュバルツ家にいた頃、スカーレットは社交界の場とは無縁の世界で生きてきた。常に学問に励んできた為であり、彼女自信が貴族の集まりに全く興味が無かったからである。若い女性なら結婚相手を探すために積極的にそのような集まりに参加するかもしれないが、スカーレットには既にアンドレアという婚約者がいたからである。しかし、そのアンドレアとは意外な形で破局となってしまったが。

「どうかしましたか？」

不意に黙ってしまったスカーレットにカールは声を掛けた。

「い、いえ。実は私はドレスの類を1着も持っていないもので…ワンピースでも構わないでしょうか？」

「ええ、スカーレット様のワンピースはいつも素敵ですから大丈夫だと思いますよ」

カールは笑顔で答える。そしてその様子をみつめていたセオドアが言う。

「それでは私は失礼いたしますね」

セオドアは退室し、アリオスの元へと向かった―。