第3章 10 お願い
「それにしても衝撃的な話ばかりだったわ…」
話が終わってアーベルがブリジットの部屋から去った後、スカーレットがポツリと呟いた。
「ええ、本当にその通りですね…本当に恐ろしい母娘です」
「ブリジット、私…本当はあの屋敷の様子を見に行きたいのよ…ううん、屋敷の様子だけじゃないわ。私達が管理していた湖のほとりの公園…あそこは一体どうなってしまっているのかしら?あそこは町の人たちの憩いの場としてだけではなく、観光地としての役割も担っていたのに…」
スカーレットは頭を抱えてしまった。屋敷までは行けずとも、公園の様子だけはどうしても気がかりで仕方が無かった。あの公園を管理していたのもシュバルツ家の使用人たちであったが、彼らは屋敷には住んではいなかった。公園の敷地内に建てられた管理人用の家で暮らしている。なので今回の騒ぎを知らない可能性がある。
「お義母様はあの方々にお給料を支払っているのかしら?それとも皆やめてしまって管理する人達が誰もいなくなって…公園が荒れ放題になっていたら?」
あの公園はスカーレットにとって思い出の場所だった。まだ幼い頃、父であるリヒャルトとよくお弁当を持ってピクニックへ出かけた大切な場所だったのだ。
「スカーレット様…一度それではアリオス様にお願いしてみてはいかがでしょうか?ひょっとすると外出許可が降りるかも知れませんから」
「ええ、そうね…ブリジット」
そこで2人は一緒にアリオスの執務室へ向かうことにした―。
****
その頃、執務室ではアリオスが来週開催される王宮で開催されるパーティーの招待状を眺めていた。
「全く…どうすればよいのだ…」
アリオスがため息を着いたその時。
コンコン
ノックの音がした。
「誰だ?」
アリオスが顔をあげるとドアの外で声が聞こえた。
「私です、スカーレットです。一緒にブリジットもおります。」
「ああ、そうか。中に入ってくれ」
するとカチャリとドアが開かれ、そこにはスカーレットとブリジットが神妙な面持ちで立っていた。
その様子を見てアリオスが声を掛けた。
「どうしたのだ?2人とも。以前いた執事とは話が済んだのか?」
「はい。話は終わりました。それであの…今お忙しいでしょうか?少しお時間を頂きたいのですが…」
「ああ、別に構わない。中に入ってくれ」
「はい」
「失礼致します」
スカーレットとブリジットは返事をすると部屋の中へと入り、書斎机の前に座っているアリオスの前に立った。
「どうした?話とは何だ?」
「はい、実は折り入ってご相談したいことがあります。ほんの数日で構いませんので…実家の様子を見てきても構わないでしょうか?勿論」
「何?シュバルツ家の様子を見に行きたいのか?」
「はい、どうかお許し頂けないでしょうか?」
スカーレットとブリジットは頭を下げた。
「ふむ…」
アリオスは考えた。スカーレット達よりも先に今のシュバルツ家の様子をアーベルから聞いていたので、今の現況で2人きりで向かわせるのは良くないと思ったからだ。
「あの、屋敷に行くつもりは無いのです。あの屋敷には義母と義妹が住んでいるので、会うわけには行きませんから。ただ私が気になるのはシュバルツ家で管理していた湖の公園なのです。その様子を見に行きたくて。」
「何?公園の様子を見に行きたいのか?」
「はい、あそこは私がまだ子供だった頃…お父様とピクニックへ良く出かけた場所なのです。そこの公園の管理がどうなっているか気になるのです。あそこは町の人たちの憩いの場だけではなく、観光地としても成り立っているのです」
「観光地になっているのか…?」
その時、アリオスの頭にある考えが浮かんだ―。
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