第2章 13 ドアを開けた人物は

「変ね…どうしてカール様は夕食なのにお姿を見せて下さらないのかしら?」


「ええ、そうですね…」


スカーレットの誰にともなし言う言葉にブリジットは賛同する。給仕のメイドたちに尋ねても、担当ではないので分からないとの返答しか得られなかったからだ。


「私、カール様のお部屋へ様子を見に行ってくるわ」


スカーレットが席を立つと1人のメイドに止められた。


「お待ちください。必ず決められた時間にスカーレット様とお付きの方にお食事をお出しするようにアリオス様から言い使っておりますのでどうかアリオス様のお言葉に従って頂けないでしょうか?」


「そんな…!」


「どうぞ、お掛け下さい。いま、お食事を運んでまいりますので」


別のメイドが言う。それは有無を言わさない言い方だった。


「わ、分かりました…」


スカーレットはおとなしく返事をすると椅子に座った。


「スカーレット様…」


ブリジットが不安気な目でこちらを見つめてくる。スカーレットはその顔を見つめ、力なく首を振った。


(仕方がないわ…所詮私はアリオス様にカール様の家庭教師として雇われた身。そして彼女たちもアリオス様に雇われている人達なのだから、私の我儘を通すわけにはいかないわ。そんなことをすれば彼女たちに迷惑をかけてしまう事になるもの)


スカーレットはブリジットにそっと耳打ちした。


「ブリジット、私食事がすんだらカール様の様子を見に行ってくるわ」


「私も一緒に参りましょうか?」


「でも、いいの?一緒に来てもらっても…?」


「ええ、勿論でございます。私は何処へでもお供致しますから」


「そう?ありがとう。なら早く食べて様子を見に行きましょう?」


「ええ、そうですね」


そして2人は豪華な料理が目の前に並べられると、普段は味わって食べるのだが今夜だけは会話も交わさず、手早く食事を済ませるのだった―。



****


食後―


スカーレットとブリジットはカールの部屋の前に立っていた。スカーレットはゴクリと息を飲むと、呼吸を整えて部屋の扉をノックした。


コンコン


しかし、中から応答が無い。


「いないのかしら…?」


スカーレットは首を傾げるが、ブリジットが言った。


「いえ、ご覧下さい。スカーレット様。扉から光が漏れています。カール様は間違いなくお部屋にいらっしゃるはずです」


ブリジットが指示した床には確かにオレンジ色の明かりが漏れている事が分かった。


「そうね。もう一度ノックしてみましょう」


コンコン


すると…


「何だ?さっきから…?」


部屋の中から若い男性の声が聞こえ、一気にスカーレットの緊張が高まる。


「スカーレット様!」


ブリジットはとっさにスカーレットの手を引っ張って自分が先頭に立とうとしたその時…


キィ~…


扉が開く音が聞こえ、中から若い男性が現れてスカーレットの眼前に立ちはだかった。


「!」


途端にスカーレットの脳裏にアンドレアに襲われた時の恐怖が蘇る。


「あ…」


スカーレットはあまりの恐怖に身動きが取れなくなってしまった。


「何だ?お前は…。ああ、カールの新しくやってきた家庭教師か?」


そこに立っていたのは美しい容姿である、この屋敷の実質的な当主であるアリオスだった。彼はスカーレットが顔面蒼白で身体を小刻みに震わせている姿に気づいた。


「ああ、そう言えば諸事情により男性恐怖症になっていると言う話だったな?気が付かずに悪った」


アリオスはそれだけ言うと、再び部屋の中へと入っていく。そしてスカーレットはアンドレアの気配が去ったことで、初めて我に返り、慌ててカールの部屋の中へと入って行った―。

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