第2章 12 カールとの穏やかな時間
朝食後、スカーレットはブリジットには休暇を与えてカールと2人だけで庭の散歩をする事にした。
スカーレットは日傘を差し、カールは麦わら帽子を被ってチェスター家の中庭を案内してもらっていた。
強い日差しの中、美しく整えられたローズガーデンを2人は歩いていた。
「スカーレット様・・・その服装暑くないですか?」
半そでに半ズボン、ハイソックスに黒の革靴を履いたカールが心配そうに尋ねた。
「ええ・・少し暑いですけど・・あまり肌が見える服を着るのが怖くて・・」
「スカーレット様・・・」
まだ10歳のアンドレアにはスカーレットが何を恐れているのか理解出来なかった。それでも薄着になることが出来ない事を知るとカールはスカーレットの手を引くと言った。
「スカーレット様。こっちです」
「え?そちらになにがあるのですか?」
手を引かれてカールについていくと、前方に木々に覆われた小道があらわれた。
「まあ・・樹木の緑道があるのですか?」
「はい、そうなんです。あそこは真夏でもとても涼しいんですよ。行きましょう」
カールは天使の様な微笑みでスカーレットの手を繋いで先を歩く。
「フフ・・」
スカーレットは歩きながら楽し気に笑みを浮かべた。
(カール様・・本当にお優しい方なのね・・。もうすぐ初夏なのに厚着をしている私の為に涼しい場所を選んでお庭を案内して下さるなんて・・)
だからこそ、尚更寂しい状況に置かれているカールが不憫でならなかった。
「スカーレット様。もう少し行くとガゼボがあるんですよ。そこは本当に涼しくて気持ちがいいんです。目の前には小さな噴水もあって、太陽の光を浴びて虹を作っているんです。是非スカーレット様にその光景を見せてあげたくて」
「それは楽しみですね」
その後も2人で穏やかに会話をしながらガゼボを目指した。
****
「まあ・・・本当に素敵な場所ですね・・。」
ガゼボに到着したスカーレットはその美しい光景に目を奪われた。真っ白な石づくりのガゼボのベンチは大理石で出来ているのでひんやりとして気持ちがいい。眼前には綺麗に刈り入れた芝生があり、円形の小さな噴水があり、勢いよく水を吹き出している。そして時折太陽の光によって小さなアーチ形の虹を作り出していた。木々のざわめく音も涼しさを呼んでいる。
「どうですか?涼しくて気持ちが良い場所でしょう?」
「ええ・・本当に。真夏はここが絶好の涼をとるのに適した場所ですね」
「気に入って頂けてよかったです」
その後、2人は30分ほどその場で楽し気に話をして過ごした―。
****
午後、スカーレットとカール、ブリジットの3人はスカーレットの提案でカールの部屋のバルコニーにガーデン用の椅子とテーブルを用意して、そこで昼食を食べた。メニューは外でも食べやすいように、メイドに頼んでサンドイッチにスコーンを用意して貰った。
「僕、バルコニーでお昼を食べるなんて初めてです!」
カールは目をキラキラさせながらサンドイッチをほおばっている。
「フフフ・・・どうですか?外で食べる食事は」
スカーレットは尋ねた。
「はい、とっても美味しいですね。僕・・・外で食べる食事がこんなに美味しいなんて知りませんでした!」
「まあ・・・ひょっとしてカール様はピクニックはされたことは無いのですか?」
ブリジットが尋ねた。
「は、はい・・一度も無いです・・」
その言葉を聞いたスカーレットとブリジットは顔を見合わせると言った。
「それでは今度3人でピクニックへ行きませんか?何処か良い場所があったら教えてくださいね?」
「はい!分りました!」
カールは笑みを浮かべながら答えた。その様子を見てスカーレットとブリジットも笑みを浮かべた。
そしてその日の夜・・・
カールは夕食の席に姿を見せる事は無かった―。
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