　22時―

グスタフとアーベル、そしてブリジットの3人は執事室に集まっていた。今夜は風が強い夜で、時折ヒュ～ッと風が吹き抜ける音や、窓ガラスをガタガタと震わせる音が部屋の中に響き渡っていた。

3人の前には長テーブルが置かれ、向かい合わせにグスタフとアーベル、そして彼らの両隣にブリジットが座っていた。3人とも無言であるが、グスタフだけは手紙を読んでいた。その手紙はリスト家から先ほど届けられたものであった。

「・・・・っ！」

グスタフはリスト家から届いた手紙に素早く目を走らせていたが、徐々に顔つきが険しくなっていく。やがてその顔は怒りの為に眉間にしわが寄り、身体は小刻みに震え始め、そしてついに・・・。

「な・・何と言う事だっ！」

とうとう我慢の限界に達したのかグスタフは手紙をバンッとテーブルの上に叩きつけた。

「まあ・・・どうしたと言うのですか？グスタフ様。」

「そうだ、どうしたんだ？そんなに興奮して・・・。」

ブリジットとアーベルが交互にグスタフに声を掛けて来る。

「あ・・い、いや・・あまりにも手紙の内容が理不尽過ぎて、つい興奮してしまった・・驚かせてしまい、申し訳ない。」

グスタフは頭を下げた。

「あの・・・私も読んでも構いませんか？」

ブリジットはグスタフに声を掛けた。

「ええ。どうぞ。」

許可を貰ったブリジットはテーブルの上に置かれた手紙に手を伸ばした。

「ブリジット様、私も一緒に拝見させて頂いても宜しいですか？」

アーベルがブリジットに声を掛ける。

「ええ、そうですね。では一緒に読みましょう。」

そして2人はテーブルの上に手紙を広げると2人で目を通し始めたが、やはりグスタフ同様、見る見るうちにブリジットもアーベルも顔色を変える。

「こ、これは・・・・！」

「何て酷い話なのだ・・・っ！」

ブリジットは顔を覆い、アーベルは頭を押さえてしまった。リスト家から届いた手紙はそれだけ3人にとっては強烈な内容だったのだ。

「あ・・あんまりです・・・。シュバルツ家の者であれば、結婚相手は誰でもよいなどと・！」

ブリジットはスカーレットの事を思うといたたまれなくなり、目に涙を浮かべた。

「何ていい加減な返事を・・・！リスト家はもともとアンドレア様がシュバルツ家の爵位をつげれば、端から相手は誰でもよかったんですよっ！」

「落ち着いてくださいっ！ブリジット様っ！」

「そうですっ！我々が騒いだところで・・・旦那様はがいない限り・・どうする事も出来ないのですよ！」

ヒステリックに泣き叫ぶブリジットをアーベルとグスタフは必死でなだめた。

「あ・・貴方達はそれでいいのですかっ？！わ、私は・・も我慢できませんっ！大体・・旦那様が行方不明になってしまったのは・・あの親子の差し金に決まっています！」

「ブリジット様・・・。」

グスタフは溜息をついてブリジットを見た。

「グスタフ様・・アーベル様・・私、決めました。明日・・・アグネス様に直談判致します。即刻スカーレット様とアンドレア様の婚約破棄を取り消して貰うように・・これではあまりにもスカーレット様が不憫すぎますっ！大体・・パーティーにもアンドレア様はエーリカ様をエスコートすると申されているのですよっ？！出席者たちは皆さん、スカーレット様とアンドレア様が婚約していた事はご存じなのですよ？！それを・・アンドレア様が別の女性を連れて、参加するなど・・・！」

確かにブリジットの言う事は一理ある。普通パーティーに一緒に参加するのはパートナーと決まっている。それなのにアンドレアはエーリカを伴うのだ。

「スカーレット様は・・・お1人でパーティーに・・？」

アーベルはポツリと呟く。

「いや、そんな事をするくらいなら・・欠席された方がましだな・・。」

グスタフは溜息をつくのだった―。