第1章 22 衝撃的な報告

 午前9時―


 朝食の席に現れなかったスカーレットを心配したブリジットと2人の執事は彼女の部屋を訪れ、衝撃的な話を聞かされた。


「な・・・何ですって・・・っ!」


ブリジットは声を震わせてベッドの上で泣き崩れているスカーレットを抱きしめた。


「な・・・何と愚かな事だ・・・!」


「我々に何も報告もせずに勝手に婚約を破棄するなど・・・っ!」


グスタフとアーベルが交互に悔しそうに唇を噛みしめる。


「だから私は言ったではありませんかっ!アンドレア様をこの屋敷に入れるのは反対だとっ!結局・・・アンドレア様はあのエーリカ嬢に誘惑されてしまったではありませんかっ!し、しかも・・婚約破棄だなんて・・・最悪ですっ!」


ブリジットは2人の執事にくってかかった。それを耳にしたスカーレットは泣きぬれた顔でブリジットを見ると言った。


「やめて・・・ブリジット。お願いだから・・・もう2人を責めないであげて・・?こうなったのは私にも責任があったのよ・・・もっとアンドレア様を惹きつけられる程に私に魅力があれば・・こんな事には・・・。」


「スカーレット様・・・!」


アーベルは苦し気に顔を歪めた。


「何を仰るのですかっ?!スカーレット様の方が・・あの娘よりも何倍も魅力的な女性ですっ!ご自分を卑下するのはおやめ下さいっ!」


ブリジットは強くスカーレットを抱きしめると言った。


「あ・・ありがとう・・ブリジット・・・。」


スカーレットはブリジットにしがみついた。その様子をじっと見つめていたグスタフがアーベルに素早く目配せすると言った。


「アーベル。話がある。」


「あ?ああ・・・。」


アーベルは訝しみながらも返事をした。するとグスタフは頷き、今度はスカーレットとブリジットに語り掛けた。


「スカーレット様、ブリジット様、アーベルと少し話があるので退席させて頂きますね。」


「え、ええ・・。」


「はい・・・分かりましたわ。」


2人の返事を聞くとグスタフは一礼し、アーベルの肩を叩いた。


「行くぞ。」


「あ、ああ・・。」




****


執事室に着き、椅子に座るとアーベルは尋ねた。


「グスタフ、話しとは何だ?」


「言うまでもない・・。アンドレア様の事だ。」


アーベルの向かい側の椅子に座り、グスタフは苦虫を潰したような顔で腕組みしながら言う。


「そうだな・・・。婚約の話は家同士の話しなのに・・勝手に当人が・・・しかも相手の同意も無しに一方的に婚約を解消し、相手を乗り換えるなど・・こんな勝手な事が許されるはずがない。きっとこんな話はリスト家だって認めないだろう。」


アーベルは言うが、グスタフの顔はうかない。


「果たしてそうかな・・・?」


グスタフの言葉にアーベルは首を捻った。


「何故だ?お前はそうは思わないのか?」


「ああ・・・何しろ、もともとアンドレア様はリスト家の四男でスカーレット様と結婚後はこの家の家督を継ぐことになっている。・・・認めたくはないが・・一応あのエーリカは・・・シュバルツ家の人間となってしまっている。例え・・スカーレット様が相手ではなくとも・・同じシュバルツ家の人間であれば・・リスト家は別に構わないのではないだろうか・・・?」


「そ、そんな・・馬鹿な・・・っ!す、すぐにリスト家に連絡を入れなければっ!」


アーベルは青ざめた。


「ああ・・そうだな。」


グスタフはリスト家に手紙をしたため、使いの者に託した。


そして・・その日の夜、グスタフの嫌な予感は的中するのだった―。

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