前のエピソード――第1章　8　対面

「な・・何ですって？つまみ出すって・・。こ、この・・爵位も無い平民風情が生意気なっ！」

アグネスはたまらず叫んだが、その言葉にひるまずにアーベルが口を開いた。

「今・・我々を平民風情が・・・とおっしゃいましたね？」

「え、ええ？勿論言ったわよ。」

「あいにくですが・・我々は執事に任命された時にリヒャルト様よりバロンの爵位を頂いているのです。」

グスタフが言う。

「な・・何ですって・・・？！」

アグネスの顔が青ざめた。娘のエーリカも言葉を失っている。

「我々は第一執事のヴィクトールから話を聞いたのですが・・マゼンダという名の男爵はいなかったそうです。・・本当は貴女方こそ爵位の無い偽物なのでは？」

「う・・う、うるさいっ！それでも・・私は今はリヒャルト・シュバルツ伯爵の妻なのよっ！もう・・・いいわ。さっさと客間を2人で用意してきて頂戴っ！ほ、ほら！お前からも命令しなさいっ！」

アグネスは今度は怒りの矛先をスカーレットに向けた。

「！」

今迄人から怒鳴りつけられた経験など一度も無かったスカーレットは恐怖でびくりと肩を動かし・・そして、すがるような目でアーベルとグスタフを見ると言った。

「お・・おねがい。アーベル、グスタフ・・・お母さまの言うとおりにして・・？」

「「スカーレット様・・っ！」」

2人はスカーレットの怯える目を見て、これ以上逆らうのは得策ではないと思った。

「は、はい・・スカーレット様・・・。承知いたしました。行こう、グスタフ。」

アーベルはグスタフの方にポンと手を置き・・グスタフは悔しそうに拳を握り締めると一礼し、2人は客間を後にした。2人が去ると、アグネスはソファの背もたれに寄り掛かると言った。

「全く・・生意気な執事達だね。この家の主人にたてつくとは・・。」

「え・・？」

その言葉にスカーレットは耳を疑った。

「な・・何をおっしゃるのですか？！仮に・・仮に旦那様がお亡くなりになられたとはいえ・・このシュバルツ家の正統な血を引くのはスカーレット様です。女主人になる方はスカーレット様しかおりませんっ！」

ブリジットはすかさず言う。しかし・・・。

「スカーレット、お前・・今いくつなの？」

アグネスは冷たい声でスカーレットに尋ねてきた。

「は、はい・・19になったばかりです・・・。」

震えながらもスカーレットは答えた。するとアグネスはフンと鼻で笑いながら言った。

「まだ19歳なんでしょう？成人年齢には達していないじゃない。だから私がお前が20歳になる迄は代わりに女主人になってやろうって言ってるのよ？分かったかい？」

「は、はい・・分かりました・・。」

するとそれを聞いていたエーリカが意地悪気に言った。

「お姉さま？そう言う時は分かりましたとは言わずに、よろしくお願いしますと言う物なのよ？」

「ま・・まあっ！スカーレット様に・・・！」

ブリジットは怒りで顔を赤くしたが、スカーレットはそれを止めた。

「いいのよ、ブリジット。」

そしてアグネスに視線を移すと頭を下げた。

「お母さま・・これからどうぞ・・よろしくお願い言いたします・・・。」

「まあ・・お前は使用人たちよりもよほど物分かりがいいわね？素直な娘は好きよ？」

アグネスは妖艶に笑った。

「ありがとうございます・・。」

「話は済んだわ。もう部屋に帰って結構よ。あ、そうそう・・・。今夜のディナーは18時に用意するようにお前の口から伝えて頂戴？どうもこの屋敷の人間たちは反抗的でなかなか私の言う事を聞かなくて困るわ。だけどね・・・あまりこの私に反抗的な態度ばかり取っていると・・いつまでこの屋敷にいられるか分からないわよ？」

アグネスはまるでブリジットにいいきかせるように言った―。