母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

第1章 8 対面

「お待たせ致しました。スカーレットでございます・・・。」

スカーレットが客間にやってくると、そこにはグスタフが用意したお茶とケーキを堪能していたマゼンダ親子の姿があった。

2人は目の前に現れた美貌のスカーレットを見て一瞬言葉を失い・・次に嫉妬にまみれた目でアグネスは言った。

「お前がリヒャルトの1人娘のスカーレットだね？」

言いながら、クッキーをつまむと口に入れた。

「はい、そうです。」

「そう・・・では今日から私がお前の新しい母になるアグネスよ。そしてこっちが娘のエーリカ。お前よりも2歳年下だから妹にあたる。仲良くしておやりよ？」

「よろしく、お姉さま？」

娘のエーリカもきつい眼差しでスカーレットを見た。エーリカは自分の美貌に絶対的な自信を持っていたので、さらに美しいスカーレットを見た瞬間、激しい憎しみと嫉妬を募らせながら意地悪な声で挨拶をした。

「こ、こちらこそよろしく。エーリカ・・・。」

スカーレットは今にも消え入りそうな声でエーリカに挨拶をした。そのビクビクした様子を見ながらアグネスは思った。

（この娘・・こんなに見事な美貌を持っているのに、何故こんなに自身無さげなのかしら・・・。でもこの様子だと言いなりにさせるくらい、どうってこと無さそうね。）

それよりもアグネスが手を焼きそうだと思った存在はグスタフとアベルであった。

2人ともまだ自分よりも若いのに、この家の主に絶対的な忠誠を誓い、どこか自分を馬鹿にしてかかっているような気がしてならなかった。

（あの2人この屋敷にいること自体まずいわね・・・。体のいい理由を考えてさっさとクビにした方がよさそうだわ・・・。）

そこでまずアグネスはこのじゃまな2人を追い出そうと思った。

「お前たち2人で今夜から私とエーリカが使う部屋を用意して来なさい。」

するとすかさずアーベルは言った。

「あいにくですが、まだ貴女方はこの屋敷の客人でしかありません。ですのでお2人で1つの客室とさせて頂きます。」

「何ですってっ？！この・・・使用人のくせに生意気な・・っ！」

エーリカがアーベルに食って掛かる姿にスカーレットはびくりとした。するとそれを目にしたアグネスが娘を注意した。

「まあ・・落ち着きなさい、エーリカ。確かに彼の言う事は一理あるわ・・何せ旦那様は亡くなってしまったのに・・私達だけがシュバルツ家に来てしまったのだから・・。せめて旦那様の遺体と一緒だったら・・皆さん私がリヒャルトと結婚したことを信じてくれたかもしれないけどね・・・。」

そしてわざとらしくハンカチで目を抑える。

「・・・っ！」

その言葉にスカーレットは青ざめ・・傍に立つブリジットがスカーレットを支えながら言った。

「お・・お待ちくださいっ！今の言葉・・・スカーレットお嬢様の前でそのようなお話をなさるとは・・・いくら何でも非常識ではありませんか？私はまだ旦那様がお亡くなりになったこと等信じておりませんっ！」

「おや？お前は誰です？メイドにしては随分年を取っているようね？」

何処までもずけずけと物を言うアグネス。

「私ですか？私は・・スカーレットお嬢様の婆やを務めておりますブリジットと申します。」

「まあ・・婆や・・？婆やというよりは、まるでお婆ちゃんね・・。」

クスクス笑いながら言うエーリカ。

「お・・・お婆ちゃん・・・。」

思わずブリジットが絶句しかけた時・・・。

「いい加減にしていただけますかっ？！これ以上横柄な態度を取られると言うのであれば・・貴女方が旦那様と家族になられたと言っても肝心の旦那様がおられないのです。我々が強引にでもこの屋敷から追い出させて頂きますよ？」

グスタフが言うと、アーベルもそれに続く。

「ええ、そうです。我々は執事でもありながら・・リヒャルト様のボディガードも務めているのですから、貴女方をつまみ出すことくらい造作もない事ですよ？」

そして2人はマゼンダ親子を睨み付けた―。