第1章 7 迎え

コンコン・・・


スカーレットの部屋にノックの音が響き渡った。


「あら・・誰かしら?」


ソファに寄りかかり、憔悴しきっていたスカーレットが顔を上げた。


「私、見て参りますね。」


スカーレットに付き添っていたブリジットは立ち上がり、扉へ向かうと声を掛けた。


「どちらさまですか?」


「・・私です。アーベルです・・。」


「まあ!アーベル様ですかっ?!」


ブリジットはすぐに扉を開けると、そこには青ざめた顔のアーベルが立っていた。


「ど、どうしたのですかっ?!アーベル様!」


ブリジットは驚いて声を掛けた。スカーレットも何事かとアーベルの方を見つめている。


「失礼致します・・・。」


アーベルは頭を下げると、ツカツカとスカーレットに近付き・・彼女の数歩手前でピタリと止まると神妙な面持ちで口を開いた。


「スカーレット様・・どうぞお気を確かに・・お話を聞いて下さい・・。」


そのただならぬ雰囲気にのまれそうになりながらも、スカーレットは頷いた。


「え、ええ・・・。分ったわ・・。アーベル、それで話と言うのは・・?」


「はい、実は・・今このお屋敷に旦那様の妻と娘を名乗る2人が来ております。そして妻である女性が・・・スカーレット様をお呼びするようにとご命令を受けて参りました。」


「え・・っ?!お父様の・・再婚相手の方がいらしているのっ?!」


スカーレットの顔が青ざめた。


(そ、そんな・・お父様がお亡くなりになられた電報を受け取ったばかりで・・遺体の確認も取れないし、お葬式の事だってまだ何も決まっていないのに・・新しいお母様はお父様の件を置き去りにして・・この屋敷へやってきたというの・・?!)


それを聞いたブリジットも顔色を変えた。


「な・・何ですって・・!その話は・・・酷いですっ!旦那様の件がまだ何一つ解決できていないと言うのに・・この屋敷へ勝手にやって来て、挙句にリヒャルト様を亡くされて、気落ちされてるスカーレット様を呼びつけるなど・・!大体、本当にその女性はリヒャルト様と婚姻されたのですか?私達を騙し、この屋敷に入り込もうとしているだけではありませかっ?!」


ブリジットはアーベルが考えていた事と同じ事を言った。


「酷い、酷すぎます!これではあまりにスカーレット様が・・・!」


興奮しているブリジットをアーベルは必死で宥めた。


「落ち着いてください、ブリジット様!我々も・・・彼女たちは旦那様の妻を名乗る偽物だと思っておりましたが・・・その人物は結婚証明書を持っていたのです!しかも・・・神父様の直筆サイン入りでした・・。」


アーベルは悔し気に拳を握りしめた。


「そ、そんな・・・で、では本当にその方達は・・・私の新しい家族・・・と言う事なのですね・・・?」


「はい・・そうです・・。」


アーベルは項垂れた。


「・・・分かりました・・。」


スカーレットは返事をすると立ち上がった。


「お嬢様・・?」


ブリジットは立ち上がったスカーレットを見つめた。


「アーベル。新しいお母様が・・私を呼んでいるのですよね?どちらにいらっしゃるのですか?ご挨拶に行くので案内をお願いします。」


スカーレットは弱々しい笑みを浮かべ、アーベルを見た。


「スカーレット様・・・!も、申し訳ございません・・・っ!」


アーベルはスカーレットに頭を下げた。そして顔を上げてスカーレットを見ると言った。


「では・・ご案内致します・・・。」


そしてスカーレットを伴い、部屋を出ようとすると・・・。


「待って!待って下さいっ!」


背後から突然ブリジットが追いかけてきた。


「まあ・・・ブリジット・・一体どうしたの?」


スカーレットはブリジットを振り返ると言った。


「私も・・私も一緒に行きますっ!よろしいですよね?アーベル様っ!」


アーベルは少しの間、ブリジットを見つめ・・・思った。


(そうだ・・ブリジット様がいてくれた方がスカーレット様も心強いはず・・!)


「分りました・・。ではお2人共、私の後に着いてきてください。」


そして3人は意地悪なアグネスとエーリカの待つ客間へと向かった―。

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