VRMMOと師匠と私④
一週間後、七海は今日もゲームにログインしていた。 ただし一週間前に比べると明らかに違うことが一つある。
ソルドラコという大きなトカゲ型モンスターを倒す動きは以前に比べると格段によくなり、レベルも25になっていた。 ただしナージャの傍にいるのはサーシャのみでオズワルドの姿はない。
辺りのモンスターを狩り尽くし、一息入れようとサーシャが飲み物を沸かした。
グラースの葉を乾燥させ煮出したお茶で空腹を満たすことはできないが実際に味と香りを感じ、アバターのHPとSPを回復させることができる。 七海はそれを飲みながら不貞腐れたように言った。
【最近、師匠全然会わないね】
【本当にね】
【あのお誘い以来、返信も何もないし・・・。 本当に渉先輩だったのかもよく分からないまま終わっちゃった】
【渉先輩だったら、流石にバイト先で教えてくれるんじゃない?】
【それがないっていうことは、師匠とは別人っていうこと?】
【おそらくね】
流石に渉本人に尋ねるのは怖くてできていなかった。 ただもしそうなら渉にも何らかの反応があってもいいはずで、そういった雰囲気は今のところ一切ない。
【今まではほとんどいつもログインしていたのに、もうずっとフレンドリストは黒いまま。 たまたま時間が合っていないのかなぁ】
【どうだろう。 リアルが忙しいんじゃない?】
【そうだといいけど・・・】
憧れで好きな師匠と会えないのは寂しかった。 だがいつまでも泣き言を言っていても始まらず、いずれは戻ってきてくれるだろうと思っていた。 しばらく二人で狩りをしていると突然メッセージが届いた。
“差出人:__/件名:アイテムの取引をしませんか?”
―――何これ?
名前は書かれていない。 あえて言うならアンダーバーさんと言うべきだろうか。 名前が空白ということから少し恐怖を感じた。
“アイテム、ですか?”
“はい。 滅多に手に入らないものですよ”
辺りを見渡してみても誰の姿もない。 ゲーム内で遠距離にいる相手にメッセージを送ることはできるが、誰彼構わずメッセージを送れるようなことはない。
つまり、ナージャが偶然選ばれたわけではないということだ。 どうしようかと迷っているとそんな雰囲気に気付いたのかサーシャがメッセージウィンドウを覗き込んでくる。
【ナージャ、どうしたの?】
【あ、今知らない人からメッセが届いて・・・。 アイテムの取引をしませんか、って】
【取引? 相手は誰?】
【分からない・・・。 名前がなくて】
【名前がない!?】
動きが止まった七海に尋ねてきた。 沙月も名前がないことに不審を抱いたようだ。 とりあえず七海はやり取りを続けてみることにした。 次にメッセージと共にアイテムの画像が添付されてきた。
“こちらの武器はどうでしょう? 2万ゴールドを渡してくれたら交換しますよ”
それはレベル50から装着できる明らかに強力な武器だった。 ナージャが装備しているものの三倍も数値が高い。 確かに武器は強くて憧れるが、七海は生憎2万ちょっとしかお金を持っていなかった。
提示された金額を支払えば、回復アイテムすら満足に買えなくなってしまう。
“ごめんなさい。 そこまでお金は持っていなくて・・・”
ほしい気持ちはあったが断念し断った。 だが更にレベル70から装着できる武器の画像を見せてきた。 レベル50のものよりも更に数値が倍になっている。
“でしたらこの武器も差し上げます。 二つで2万ゴールドです”
高額な品物だけに簡単に決めることはできなかった。 お金は当然ナージャとサーシャでは個別に管理している。 だが、常に一緒にいる二人にとってはお互いの装備も考慮すべき対象だ。
ということで、沙月に相談してみる。
【サーシャ、どうしよう。 二つで2万ゴールドとか得過ぎるし、買いたいんだけど・・・】
【止めておいた方がいいんじゃない? まだ大分先にならないと装備できないし、流石に2万は高いよ】
【でも一つの装備は弓使いのサーシャでも使えるんだよ?】
【確かにまた貯めればとも思うけど・・・。 満足に狩りできなくなったら貯めることすら大変になるよ?】
相談した結果、やはり無理という結論に到達する。
“ごめんなさい、やっぱりできないです”
そう言うと相手も諦めてくれると思っていた。 しかし相手は諦めようとはしなかった。
“でしたら、貴女の装備を全てくれたら1万で二つの武器をお譲りしますよ”
どうやら何としてでも取引をしたいらしい、 名前がないだけで不安であるというのに、これだけ強引に引き下がらないと不信感はより一層深まってしまう。
―――どうしてここまで粘るの?
―――私はこの人からすれば低レベルのはずなのに・・・。
―――取引しても意味がないと思うけどなぁ。
こちらの装備全てを失いまだ装備すらできない武器だけもらっても正直意味がない。 だがメッセージウィンドウを閉じても、再度別のメッセージが来てしまう。
ブロックすることも可能だが、しない限り相手は買うまで引き下がらないだろう。
【ナージャ、まだ取引しているの?】
【うん。 何度断っても次から次へと要求してきて・・・】
【やっぱり、その人怪しいよ。 もう取引は止めた方がいい】
【そうしたいけど、ここで取引を中止すると後が怖いよ・・・】
二人はどうしようかと困り果てたその時だった。 師匠からのメッセージが突然画面に現れたのだ。
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