第6話 ウチの使命
遠い目をしている星凛と、仏頂面を決め込んでいる異母姉のにこ。誰の目から見ても様子がおかしいので、二連木が遠慮がちに尋ねる。
「あの……若しかして二人はお知り合いだったりするのかな?」
殆ど初対面といっても過言ではないのだが、血縁があるのは間違いない。血縁があるだけの他人、が適当なのか。二連木に説明するべきか否かを星凛が逡巡していると、苦虫を嚙み潰したような表情をしたにこが先んじて答えた。
「あのオバサンと離婚した父親と再婚相手の子供。つまりは異母姉妹っていうやつ。苗字が水沼だし、どことなく父親に似てるし、キラキラネームだし、間違いない。私の名前を聞いて嫌そうな反応してるってことは、そっちも私のこと知ってたのかって驚いてる」
にこが星凛の存在をしっかりと把握していたらしいと分かり、ぞっとする。一体何処から情報を手に入れたのかと。然し、他人の名前をキラキラネーム呼ばわりするとは失礼な女だ。こんなのと半分血が繋がっているだなんて、神様は随分と残酷なことをする。
「にこさんは彼女と面識があるの?」
「名前は父親から聞いた。この名前を何処かで耳にしたら、関わるなって。お前も母親も危害を加えるつもりだろうってね。面識はないけど、顔は……昔に遠目で見たことがあるくらい。だから名前言われるまで分からなかった」
父親は新しい家族とにこが接触するのをかなり嫌がっていたから、と、にこが淡々と語る。にこが家族に嫌がらせをしないようにと、父親が防衛線を張って守ってくれていたのだと知り、胸が熱くなった星凛は、これからは出来るだけ父親に優しく接するようにしようと思った。そして――真実知らない二連木をにこの魔の手から守らなければ、父親のように、と、決意する。
「二連木先生、今すぐこの人と別れて!だってこの人、パパからお金せびってたんだよ!養育費をちゃんと貰ってるのに、遊ぶことにばっかり使っちゃって!だから、このままだとがっぽりお金とられて、二連木先生が貧乏になっちゃう!」
此処は駅、公共の場であることをすっかり失念した星凛が力一杯大きな声を出すので、通りすがりの人々や、周囲で待ち合わせをしている人々がチラチラと此方を見てくる。好奇の視線を浴びている二連木は困ったように笑って、星凛を宥めようとする。
「何も問題はないよ。僕は彼女にお金の無心をされたことはないからね。寧ろ、僕の方からお金を払わせてもらっているくらいで……」
「それがお金をせびられてるってことだから!!!」
「……ねえ」
周囲から送られてくる視線の圧に耐え切れなくなったにこが、不機嫌そうに口を開く。星凛は反射的に、彼女を睨みつけた。
「場所、変えない?あんたが騒ぎ立てるから、注目の的になってんの、私ら。気付いてないんだろうけど。駅の外にカフェがあるから、あんたの文句は其処で聞いてあげる」
「……はあ!?」
ついて来い、というジェスチャーをしてから、にこがすたすたと歩いていく。
どうして、あの女に偉そうに命令されなければいけないのか。星凛が憤慨していると、二連木が穏やかな声をかけてきた。
「これ以上は用がないというのであれば、このまま帰りなさい。彼女には僕から説明するから、問題はないよ。貴女はこれからどうする?」
星凛の行動が二連木にはちっとも響いていなかったのだと分かり、落胆する。
「……二連木先生はどうして、あの人の味方をするの?だって、あの人、本当にヤバい人だよ?他人のお金とっても何も思わないんだよ?先生、絶対に騙されてる……っ」
「僕は僕が知っているにこさんのことを信じているから。にこさんは真面目な人だよ。確かにお金にはうるさいけれど、誰かを騙そうとする人ではないことを、僕はよく知ってる」
新しい家族を持った父親のところに訪れて、金の無心をするような人間が真面目である訳がない。どうしてか二連木はにこのことを非情に信頼している。それが二連木の目を曇らせているのだと分かり、星凛は切なくなる。
「……あっちで話す」
このままではいけない。二連木が悲しい目に遭わないうちに、目を覚まさせてやらなければ。それが出来るのは、にこの真実を知る星凛だけなのだから。強い使命感に駆られた星凛は、力強い足取りでにこの後を追う。星凛の背後で、やれやれと言いたげに肩を竦める二連木には気が付かずに。
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