第4話 真面なウチの勘繰り
自室で音楽を聴きながら宿題をしている時だった。星凛は不意に、或る事を思い出した。
どうして、”にこ”という名前に聞き覚えがあったのか。その名前は異母姉の名前と同じものだったからだと。それを意識するなり、星凛は主題を放置して、物思いの世界へと飛び込んでいく。
(にこっていう人、今何歳なんだろ?とっくに大人になったのは知ってるけど)
何年か前に父親が母親に愚痴をこぼしているのを聞いたのだ。
前妻の娘に成人の祝いとして振袖を贈ってやったのに、その娘から感謝の言葉が無かったことを父親は憤慨していた。父親としての義務を果たしてやっているのに。振袖がどれだけ高かったと思っているのか、と。母親はその愚痴を聞いて、「ええ、そうね、腹が立つわね」と言って、父親を宥めていたのを覚えている。
イライラついでに零された言葉で、テストの成績だけは良かったと評価されていた異母姉が高校を卒業すると直ぐに就職をしていたことも知った。
(中卒でも高卒でも就職はできるらしいけどさ、将来のことをちゃんと考えたら、大卒の方が良いのに。頭悪いんじゃないの、ホントは、にこって人。ウチはちゃんと高校に行って、大学に行って、それからちゃんとした会社に就職するつもりだから。中学生だけど、ちゃんと将来のこと考えてますよー)
誰からも碌でもないと評される母親から生まれた異母姉のことだ、きっと碌でもない人間なのだろう。そんな人間を雇ってしまう会社もきっと碌でもない、給料とモラルの低いブラック企業だろうに決まっている。そんなところでも異母姉の扱いに困って、しょうもない理由をつけて解雇しているかもしれない。
収入が無くなることを恐れて結婚に逃げようにも、人間性に難があるのだから、結婚はおろかカレシすらも出来ないだろう。
――などと、何とも勝手な想像をして、星凛は異母姉を勝手に憐れんで愉しむ。
(二連木先生のカノジョは絶望的なブスだったけど、にこって人はどんなだったっけ?)
異母姉が金の無心にやって来ていたのは、もう随分と前のこと。一度も口を利いたことがないので声は知らないし、星凛たち母子を睨みつけていた目だけははっきりと覚えているが、フェンス越しや、遠目に姿を見ていただけなので、顔もはっきりとは覚えていない。可愛いとか綺麗とかいった印象を持つこともなかった。
父親が「ママに似て可愛い」と星凛を褒めてくれるのに対して、異母姉は容姿を全く褒められていなかったので、イマイチの可能性が高い。
何一つ救いのない人生を送っているのだろう異母姉を星凛は憐れむ。
自分には真面な両親がいて、真面な兄がいて、真面な友達がいて、月々の生活に困ることもない日々を送れていて、本当に良かったと。
(二連木先生のブスカノジョと、パパの前の家族の名前が同じなんて変な偶然。”にこ”なんて名前、ウチの友達にもクラスメイトにもいないから、きっと珍しい名前だと思うんだけど。昔にバズったとか?そんな訳はないかぁー……)
ただの偶然だから、何か問題があるとかじゃないし。そう結論づけて、妄想を止めた星凛は宿題を再開する。
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