第3話 人間にはレベルがある
春休みが終わり、新学期が始まる。
星凛は学年が上がり、中学三年生になった。クラス替えが行われたことで、一度もクラスメイトになったことがない顔ぶれもいたが、小学生の時から仲良しの
中学三年生ともなると、周囲には高校受験を控えてる者が圧倒的に多く、テストの点数や内申点に過敏に反応するようになる。更には反抗期の真っただ中にいる者もいて、家庭でのイライラを学校にまで持ってくることもある。神経に気を遣わなければならないことばかりの学校生活を送ることが決まっているのに、新しい友達作りにまで労力を使いたくはないと星凛は思っている。自分の居場所を確保するための友達作りは、中々に精神力を削るのだ。
星凛と同じ思いを抱いているのかが定かではないが、新しいクラスメイトたちは既に顔見知りを集めてグループを形成している。その輪の中に入れなかった者や、我関せずと一匹狼を気取っている者が賑やかな教室の中でぽつんと浮いている様が哀れに見えた。
「あ~あ、遂に中三だよ。星凛はもう高校決めてんの?ウチは未だ決めてないんだけど」
「ウチも未だ。でもママがレベルの高い高校に行けって言ってくんの。そしたら色んな事に有利になるからって。でもさあ、娘のレベル分かってんの?ってとこばっかり勧めてきてさあ、マジ鬱」
星凛が通いたいと思う高校の条件は、制服が可愛いと評判の高校か、或いは私服での通学を認めている高校だ。母親が進めてくる学校は進学校ばかりで、渡されたパンフレットを見る限り、制服がダサい確率が高かった。塾に通っているものの、星凛の学力は中の中、調子が良くて中の上といったところで、無理をして偏差値が高い高校を受験しても合格する確率が低すぎるだろう。それを訴えても「ママも応援するから頑張ろう?」と返ってくるだけで、母親は聞く耳を持ってくれない。一方、父親は星凛の学力にはあまり期待していないようで、「評判の悪い高校でなければ、何処の高校に行っても良い」と言うのだ。期待されていないことに腹が立ちはしたものの、学力に見合っているからと不良ばかりの高校に行けと言われるよりはマシだと思うことにした。
「ホント、ママが受験にウルサイとは思わなかった。お兄の時なんか全然言わなかったのに、何でウチには言ってくるんだろ?あんまりウルサイから、お兄みたいに寮がある高校行きたいって言ったら、それはダメって言われるし。訳分かんない」
「星凛のお兄ちゃんは成績良かったから、心配することが少なかったんじゃ?それに星凛は何でもママにやってもらってるから、寮生活は無理っしょ。ゴミ屋敷になるって」
鼻で笑う凛莉愛に苛立ちを覚えるものの、その通りなので反論が出来ない。それを悟られないように、星凛は机に突っ伏して、顔を隠す。
「あ~、も~、塾に行きたくないぃ~、もっと遊びたいよぉ~」
「あれ?星凛の行ってる塾って、イケメン大学生の先生がいるんじゃなかったっけ?イケメンに会いたくて頑張ってたじゃん?」
「……二連木先生は就活があるからって、先月で辞めちゃったの。残ってる先生はオジサンオバサンばっかで、普通の大学生じゃやる気出ない!無理!」
「まあまあ、落ち着けって。これからイケメン大学生が来ることを期待したらいいんじゃん?」
「……二連木先生が辞めたことより、あんなのがカノジョって方のがショックだったけど」
ぼそりと呟かれた言葉を、凛莉愛は聞き逃さなかった。これは何か面白いことが聞けそうだと確信した凛莉愛が、のそのそと上体を起こした星凛の顔を覗き込む。下世話な好奇心でキラキラと輝かせた目で。
「イケメン先生、カノジョいたんだ?」
「うん。すっごいブス。二連木先生がブス専だと思わなかった。あれはないわぁー」
イケメンには自然と美人が寄ってくるのだから、カノジョは美人であるべきなのに、どうしてブスを選んでしまったのかと星凛が大袈裟に嘆く。
「ん~、いつも美人ばっか相手にしてるから、偶にはブスで息抜きしてんのかもよ?」
そうか、その可能性もあるのか。凛莉愛の推測を耳にして、星凛は目から鱗が落ちた気分になる。そうだ、そうでなければ二連木先生があんなブスを相手にするはずがないと。
「しかもさー、そのブス、ブスのくせに”にこ”って名前なの。可愛い名前のブスってカワイソすぎる。親はどーゆーつもりで名前つけたんだろ?自分の子供の顔のレベル見て名前つけろよ。ウチ、星凛って名前だけど、メチャクチャ可愛い訳じゃないけど、ギリギリセーフで良かった!」
「星凛言い過ぎ。ウケる」
「だってホントのことだし!凛莉愛も顔と名前のレベルが合ってて良かったね~」
「まあね」
二人でクスクス笑い合って、ふと、星凛は気付く。
(そーいえば、にこって名前、前にも何処かで聞いたよーな……?)
聞き覚えがあるような気がするが、全く思い出せない。そんな時、チャイムが鳴る。これから、退屈な始業式だ。
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