第8話:母屋

 藤壺がぐっすり眠ったのを確かめた梅一は、自分と藤壺が布団の中で眠っているように見せかけるために、藤壺の横に座布団を詰め込んだ。

 その上で、点検用の天井板を外して登った。

 埃や蜘蛛の巣だらけの天井裏を進むのはとても気をつかう。

 戻ってきた時に服が汚れていてはとても困るのだ。

 だから盗みに入る時には黒装束に着替えることになる。


 この屋敷に来て梅一が案内されたのは、俗にいう中間長屋なのだが、この屋敷では大身旗本や金持ちを客に迎えているので、中間長屋というよりは離れだった。

 それなりに金を使って内装を整えてはいるが、この屋敷の当主がいる訳ではない。

 当主が管理している借用証文の保管場所を見つけ出すには、当主を見張らなければならない。


 梅一は屋根裏を移動しては天井板をずらし、降りられそうな場所を探した。

 中間長屋を出て母屋に行かなければいけないのだが、自分達の部屋の窓から出てしまったら、万が一見つかった場合に言い訳ができない。

 三度確認して、誰もいない窓のある部屋を見つけた梅一は、その部屋に降りて窓から外の様子を確かめた。


 見張りの巡回する間隔を確かめた梅一は、ひらりと庭に降りて風のように駆けた。

 見張りの見つかることなく母屋の床下に入り込むことに成功した。

 大身旗本の母屋だけあって、床下にも忍者が入り込めない工夫がしてあった。

 だが改装の時に大工が手抜きしたのか、それとも戦国の世の備えを知らないのか、所々に抜けられる場所があった。


 最初は罠を警戒していた梅一だったが、次第に過剰な警戒は不要だと思えるようになり、床の上の人間に見つからないように気を付けながら、梅一は床下を移動した。

 じっくりと時間をかけて移動した梅一は、人気のない場所を選んで外にでた。

 出た場所は屋敷の当主よりも身分の高い人を迎えるための式台だった。

 梅一はそこからひらりと飛び上がり、天井の四隅に張り付き天井板をずらし、そのまま天井裏に入り込んだ。


 梅一は床下を移動した時の感覚と、今まで盗みに入った大身旗本屋敷を思い出して、当主の部屋や重要な品物が保管されている部屋を見つけようとした。

 下の気配を確かめながら天井裏を移動し、要所で天井板をずらして下を確認した。

 予想通りの場所に当主がいて不寝番もいた。

 だが未熟な不寝番は、天井裏にいる梅一の事に気がついていなかった。


 屋敷の構造や部屋割りを確認した梅一は、急いで中間長屋に戻ることにした。

 あまり長く部屋を開けるわけにはいかなかった。

 旗本と家臣は心配する必要はないようだが、博徒の方は違う。

 切った張ったを繰り返す博徒達は、道場剣術では武士に勝てないが、実戦では武士を圧倒する経験があるのだ。


 


 

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