第6話:探索

 梅一はそれから十日間賭場に通った。

 幾つかの顔を使い分けている梅一はそれなりに忙しいのだが、それでも時間をやりくりして、毎日少しの時間でも賭場に通っていた。

 初日に百両以上の大金を勝って、その一割を賭場の代貸に渡した事で、賭場の掟に精通していると思われていた。

 そうでなければ初日の帰り道に襲われていた事だろう。


 賭場ではほぼ毎日浪人者とも顔を合わせたが、特に何も口はきかなかった。

 知り合いだと思われたら、博徒に警戒される可能性がある。

 無用の危険は避ける主義の梅一は、浪人者とは目もあわさない。

 とは言いながら、女子供が困っていると、命懸けで助けようとする性分の梅一は、何度も死にかけているのだが。


「ここだけの話しなんだが、ここにいる娘達は病気なんて持ってないだろうね」


 梅一は、初日に案内してくれてから何かと話しかけて仲良くなった賭場の三下、豊二に小声で話しかけた。


「宗助さん滅多な事を口にするもんじゃないよ。

 ここにいる娘さん達は、親の借金の所為で身体を売ってはいるが、どなたも立派な武家のお嬢さんなんだよ。

 それにここに来られるお客さん達は、身分の高い方かお金持ちの人達だ、病気持ちのいるような悪所には行かれていないよ」


 豊二は本気で梅一の事を心配してくれていた。

 生れた陸奥の南部で凶作が続き、生きるために盗みを働きながら江戸に出てきた豊二は、まだ完全に悪党にはなっていなかった。

 だからこそ余命な事を口にしたせいで、梅一が親分や兄貴分達に殺されるような事は避けたかったのだ。


 長年裏社会と表の社会で多くの人を見てきた梅一は、ひと目でそんな豊二の性格を見抜き、心を盗るように心がけてきた。

 毎日賭場に来る時には、博徒衆に渡すか菓子とは別に、豊二にだけ心付けを渡して特別扱いしていた。

 帰りには勝った金額の一割を代貸に渡すと同時に、豊二にだけ心付けを渡した。


「そうですか、私もここに来させてもらってまだ間がないものですから、余計ない心配をしてしまったのです。

 私も父に江戸で店を出す差配を任された以上、病気になるわけにはいかないので、つい無礼な事を口にしてしまいました」


「宗助さんの気持ちは分かりますが、口は禍の素ですから、気をつけてくださいよ」


 梅一は本気で心配してくれる豊二に心の中で詫びていた。

 素性を偽り偽名を使い騙している事を詫びていたのだ。

 だが、だからといって浪人者との約束を破る気はなかった。

 豊二にも事情があるのだろうが、豊二以上に娘さん達が可哀想だった。

 何としても今の状況から助け出してやりたかった。


 だからこそ、当初は避けていた、娘さんを抱く決意をした。

 賭場の中でひと通りの情報を集めたが、証文の保管場所は分からなかった。

 調べるには一人になって屋敷の中を探らなければいけない。

 そのためには、ゆっくり時間をかけて調べる必要があった。

 そのためには、女と二人きりになる必要があった。

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