第5話:賭場
梅一は裏社会の伝手を使って賭場になっている屋敷に入り込んだ。
養父や養祖父の代から裏社会に生きる梅一には、多くの伝手があった。
偽物の紹介状、上方から商用に来た薬屋の若旦那と偽るくらい簡単だった。
紹介状を手に入れた梅一は、明六つ(六時)に木戸が開くと直ぐに賭場の開かれる屋敷に向かったのだ。
「お前が義侠心に富んだ殺し屋だと言うのなら、借金のかたにあの屋敷で身体を売らされている娘達を助けてみせろ。
その上で某に盗みの技を教えるのだ。
そうだな、千代田の御城に盗みに入れるくらいの技を教えてみせろ。
そうしたら悪人を斬ってやろう」
浪人者が出した条件は厳しすぎた。
普通の盗賊では絶対に達成不可能な条件だった。
だが梅一にはその厳しい条件を成し遂げる自信があった。
盗賊の中でも際立った身のこなしを誇り、錠前破りの技術まで持っている。
開けられない錠前などないと言うのが梅一の誇りだった。
そんな梅一だから、賭場屋敷に入り込むくらい朝飯前だった。
塀を飛び越え雨戸を破って屋敷に入り込むくらい簡単な事だった。
だが問題は娘達の借用証文がどこに保管されているかだった。
外蔵から内蔵か、場合によっては手文庫に保管している事もある。
用心深い奴だと、屋敷に隠し蔵を作っている場合すらある。
「お客さん、賭場に行かれますか、それとも女を抱かれますか」
「賭場に案内していただけますか」
案内してくれる三下の問いに梅一は答えた。
貧乏の為に身を売る御家人娘を抱く気にはならなかった。
それよりは博打で儲ける方が性に合っていた。
「こちらです」
身分の高い客に慣れた三下は、若旦那に変装している梅一にも丁寧だった。
「丁かたないか、丁かたないか」
この賭場で行われているのは、一から六までの数を当てる樗蒲でも賽六でもなく、一から三までか四から六までを当てる大目小目でもなく、丁半賭博だった。
「丁だ」
「丁半駒揃いました」
まだ案内されている途中の梅一は、実際に賭ける前に、この賭場がいかさまをしていないか確かめようとしていた。
壺振りが右手を壺においたまま左手の指の股を大きく開いている。
いかさまをしていない証に、自分の手の平を客が見易い壺の横に伏せる。
遊び人としての経験も長い梅一から見ても、いかさまは行われていない。
「グニ(五二)の半」
「くそ」
「へっへへへへ」
「いや、いや、いや、また外れてしまいましたね」
「うっへへへへ、五連勝ですよ、五連勝」
丁方に張った駒が一旦回収され、寺銭分の駒が差し引かれて半方に賭けた客に分配される。
時間をかけて元金を駒に変えた梅一は、三下から賭場の掟を教えてもらいながら、今日の賭場の流れをつかもうとした。
この賭場は金持ちが集まっているからだろうか、駒一枚が銀一匁。
一度に賭ける駒の数は二十枚ずつで、毎回寺銭として駒一枚銀一匁分が引かれる。
恐らくこれがこの屋敷も持ち主の収入だろう。
後は一と二の組み合わせと二と六の組み合わせの場合に、実際に博打を仕切っている博徒の収入となる、駒二枚銀二匁が引かれる。
賭場の流れをつかんだ梅一は本気で賭けることにした。
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