第4話:交渉
「へい、朝お見掛けさせて頂いた旦那の腕前があまりに凄かったので、お願いしたい事がありまして」
梅一は殺されるのを覚悟で正直に話すことにした。
義賊桜小僧の異名まで持つ梅一が、気配を隠して後をつけていたはずなのに、気がつかないうちに尾行を見破られていたのだ。
逃げようとしても斬られる可能性が高い。
だからこそ、度胸を決めて正直に話すことにした。
「お願いだと、何を頼みたいのだ」
「実は、殺していただきたい奴がいるんです」
梅一には幾つかの顔があるのだが、遊び人と盗賊以外にも殺しを請け負っていた。
とはいっても、罪もない人間を殺すわけではない。
権力者や悪党に虐げられ殺された人の遺族から依頼を受けて復讐しているのだ。
だからこそ、仲間にする者は厳選しなければいけなかったのだ。
「某を舐めているのか。
某が金で人を斬るような下種だと思っているのか」
梅一の言葉を聞いた浪人者は、言葉を荒げるような事はなかった。
だが、浪人者から放たれる気配に含まれる殺気が強くなっていた。
梅一は震えそうになる本能を気力で抑え込んで更に言葉を継いだ。
「金尽くで善人を殺してくれと言っているわけではありません。
悪い奴だけを殺して頂きたいのです。
身分や暴力で弱い者を虐げる連中を、成敗して頂きたいだけでございます」
「人間にはよい面もあれば悪い面もある。
どれほど大金を積まれようと、一方の言い分だけを聞いて人殺しなどできるか。
これ以上戯言を申すと、二度と殺しができないようにするぞ」
浪人者から脅された梅一だが、心の中では歓喜の声をあげていた。
浪人者が理想的な返事をしてくれたからだ。
金で人は殺さないとう矜持と、依頼人の話しを鵜呑みにしないというのは、心ある殺し屋には絶対に必要な事だった。
梅一は何としてでも浪人者を仲間に引き入れると決意を新たにしていた。
「旦那のその誇りこそ、心ある殺し屋には絶対に必要な事です。
庶民にだって家族や恋人、友の仇を討ちたい思いがあるんです。
ですが、庶民が権力者や金持ち相手に敵討ちなんてできません。
それを私達が変わって仇を討ってやるのです」
「庶民にも大切な人の敵討ちがしたいという気持ちがあるのは理解できる。
だが、それは某が敵討ちを手伝わねばならない理由にはならん。
それに、某にはどうしてもやらなければならない事がある。
それを成し遂げるまでは、危険を冒すことはできん」
梅一は浪人者の言葉を聞いてしめたと思った。
浪人者には大望があり、それを手伝う条件で交渉が可能だからだ。
「旦那、そのどうしてもやらなければいけない事と言うのを教えて頂けませんか。
もしそれが私に手伝える事でしたら、手伝う事を条件に殺しを引き受けていただけませんかね」
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