第5話 天使と悪魔と
「言霊の力が強力である以上、こちらは過去の文明の力で対抗させていただきます」
そういって、ルーラーの他にも複数の機体がテンシーたちの周りを取り囲んだ。
「やばいですよ、エーナインさん、テンシーさん。明らかに人間よりも二周り以上大きいし、重火器もたくさん積んであります。戦争に使われる兵器ですよ。それもたくさん。人間が太刀打ちできるものじゃないですよ」
そういって、リブラはあわあわしている状態になった。
「楽しくなってきたわね。ここならたくさん暴れられるわね」
そういって、エーナインは腕をぐるぐる回してやる気満々の状態であった。そして、気を高めるように目をつぶった。
「ふん。周りに人がいないと楽だわ」
そこでエーナインは力を解放する。背中に黒い光の羽が現れていた。手には漆黒に輝く剣を生み出していた。
「数分でカタをつけるわ」
そこから起きたのはまさに蹂躙であった。
「エーナインさん、街一つ破壊できるのは冗談だと思ってましたが、あんなに強かったんですか?」
「圧倒的に強い。彼女が本気で戦ったら周りに対しての損害が多すぎたから、アイが使用できる状態を限定してる。今も全力ではない。けど、本気を出したら本当にここら一帯を平地にできる」
「ひえー。すごいですね」
一度、エーナインが周りの被害を気にせずに暴れた結果、街ひとつが滅びる結果となった。本人としてもショックではあったのか、それ以来は自らアイに頼んで力を封印することとなった。
「エーナインは私の何倍、何十倍も強い。僕の知る限り、戦いに関しては彼女の右に出るものはいない」
「そう、なんですね」
それほどの力をもった人が、頭を使う方ではあまり才能を発揮しないのは、天は二物を与えずというべきか。
「あはははは!最高ね!バラバラにしてやるわ」
「楽しそう。全力を出すのを制限されるのは確かにストレスになる」
「そうなんですね。そういえば、テンシーさんも制限がかけられているんでしたっけ」
「私は戦闘に関してはエーナインほどではないから制限はない。その代わり、言霊に関しては私の方が得意。個の戦いならエーナイン、大勢を率いた勝負なら私の方が向いている」
「言霊に関しても制限さえなければ、投票もあっさり勝ってたんですかね」
あの一ヶ月で行っていたことは徒労であったかもしれないと感じるリブラであったが、テンシーは首を横に振る。
「言霊はある意味、暴力よりも強力で残酷。街は破壊されても直せるけれど、言霊は運が悪いと命令が生涯続いたり、死ぬこともある。軽々しく使って良いものではない」
「エーナインさんはポンポンつかってましたけど」
「だから止めた。まあ、エーナインの言霊の力はそこまで強くはないから、その分リスクも低くはある」
「そもそも、言霊とはなんなんですか。人が都合良く言うことを聞くなんてありえるんでしょうか」
「原理は私も詳しくは知らない。教えてもらったわけでもなく、気づいたときにはすでに使えていた」
「めちゃくちゃですよ、もう。なんだってできるじゃないですか」
「なんでもはできない。人に言うことを聞かせることは出来てもずっとではないし。それに、信頼関係も全くない。長期的に考えたら損」
それに、なかなか受け入れられるものではない。と付け足した。その言葉から、これまで問題が起きたであろう事が伺える。
「くそ、こんなはずでは」
そういって、ルーラーはボロボロになった機体から外にでて逃げ始めた。
「お前達、私を助けなさい」
そういって、ルーラーは自分の周りを部下の機体で守らせた。
「なぜ、あなた方はルーラーに力を貸すのですか。彼はあなた方の貢献に報いることなどないのですよ」
リブラは周りにいる取り巻きたちがなぜルーラーに協力するのかを疑問に思い声を掛けた。
「無駄です。彼らは私が洗脳して私の言うことには逆らえないようにしています」
「な、なんですって。言霊の力をあなたも使えるの!?」
「言霊ではありません。長い期間をかけて、じわじわと意識を誘導してやっとできるまがい物ですよ。それでも、過去のナンバーズには通用しましたがね」
「なに?」
ルーラーは息を切らしながら、チャンスを伺いつつ時間稼ぎの話を続ける。ナンバーズのことをルーラーの口から出たことに驚くテンシー。
「テンシー。あなたの姉妹にあたるナンバーズの多くは、言霊の力がないものが多かった。なので、時間さえ掛ければどうにでも出来ましたよ」
テンシーはそこで衝撃を受ける。自分の姉妹にあたるナンバーズがルーラーと接触していたことに。
「地下でみたでしょう。あのスクラップの山は、あなたがた姉妹のなれの果てですよ」
「黙りなさい、ルーラー。もう、鬼ごっこは終わりよ」
そういって、エーナインが歩いて近づいてくる。周りの機体は全てエーナインの力によって身動きがとれないように破壊されていた。
「このことを知っていたのエーナイン」
「ルーラーにやられたのは知らなかったけど。ナンバーズがやられたということはアイから聞かされていたわ」
「なんで僕に教えてくれなかったの」
「あなたはそういったことにはすごく感情的になるから」
そうやって二人で話しているときに、ルーラーは最後の手段に出る。
「こうなってしまってはしかたありません。言霊の力を使わせて貰います」
「なんですって」
「私がどうして、あなたの好き勝手にさせていたかわかりますか。このときのために、言霊の力を解析するためだったのですよ」
そういって、ル-ラーは何か機械を取り出したかと思うと、その機械に対して言葉を発した。
『動くな』
それを言った瞬間。周りにいるルーラー以外の全員が体を動かせなくなった。
「・・・!」
エーナインもその影響を受けていることに驚く。
「どうやら、ちゃんと機能しているようですね」
そういって、高らかと笑いながらルーラーは立ち上がる。
「私はもともと過去の宗教について調べる歴史学者だったのですがね。過去のカリスマと呼ばれるもの達の行動を調べる内に、言霊の力についても見つけることができたのです」
余裕が出来たとわかったのか、自分語りを始めるルーラー。
「言霊の力で人を動かすことはなかなかできませんでした。しかし、時間をかけて何度も繰り返すことで思考を誘導させることが出来ることがわかりました。そして、それはナンバーズのみなさんも例外ではなかったようでしてね」
「あんたが、この力で姉妹達を殺したの」
エーナインは言葉を発することはできるものの、その場から動くことは出来ない。
「ひどく抵抗する方達が多かったですがね。どうやら、言霊の力が効きやすい方々が多かったものですから。エーナイン、あなたは力が強く、これまでのナンバーズに効いた言霊の力が効かず苦労しましたよ。その分、強力な言霊を使えるようになりましたがね。感謝しますよ」
開発が間に合ってよかったですよ、と付け足しながらルーラーは笑う。
「それでは、ここからはこちらの言うことを聞いてもらいますよ。散々やりたい放題やってもらった分、ボロぞうきんのように使い捨ててあげます」
下卑た表情で見下ろしてくるルーラー。
しかし、エーナインはそのルーラーに対して同情する目をしていた。
「なんだその目は!お前にはもう何もできまい」
「私にはね。でも、あんたはもっとも敵に回してはいけないものの逆鱗に触れてしまったわ」
「何?」
そういって、ルーラーが言ったときに、一つの言葉が響く。
【黙れ】
その瞬間、一切の雑音が消え去り、ルーラーは言葉を発せなくなる。
(なに!?どうなっている)
ルーラーは何が起きているかを理解出来ず、右往左往する。
声が聞こえた方へ目を向けると、テンシーが青く光る目線が突き刺さり、動けなくなる。
(なんだこの力は?何も言葉を発していないのに動けないだと?)
「ナンバーズに影響を及ぼし、害を及ぼす力。そして、唾棄すべき精神。その外敵に対抗するため、本能力を適応する」
普段ののんびりした雰囲気は一切なく、すらすらと説明を始めるテンシー。
「10秒間、力の解放を申請、許可」
一度目を閉じて、力を抑え、静けさが広がる。
そしてルーラーに向けて、
【能力を禁ずる】
そう言霊を発した。その瞬間。ルーラーの持った機械が灰のように崩れ去り、強烈な頭痛がルーラーを襲った。
「うがぁああああ!!」
ルーラーがもだえ苦しんでいる間、テンシーは深呼吸をする。エーナインとリブラは動けるようになった。
「な、何をしたんですか?」
「テンシーの本気の言霊よ。いざとなれば世界を変えることも可能なとんでもない力」
自分に向けられたものでもないにも関わらず、青ざめた表情で説明するエーナイン。
「まさに神様のような力ですね」
「そんな便利な力じゃない。一言でしか発することが出来ないし、調整を間違うと文字通り世界を滅ぼす」
ふらふらになりながらテンシーは話す。
「これでルーラーはあの言霊を使うことができない。一生。リブラ。あなたはどうしたい」
そういわれて、リブラは黙り込む。いきなり飛び込んできた、ルーラーに復讐するチャンス。
「テンシーさん、エーナインさん。あなた方に二つ、隠していたことがあります」
「私の名前はリブラですが、役割としての名前を持っています。それがルーラーです」
「「!!」」
エーナインとテンシー、両方が驚く。アイがいっていたルーラーというのはリブラのことであった。
「私は目が見えなくなった代わりに、人やモノの魂の色をみることが出来ます。色が白いと、その魂は清く素直で、黒いほど汚れねじ曲がっています」
「そして、私は黒く染まった魂を白く塗り替える力があります」
そういってルーラーに近づきながら話すリブラ。
「本来、ルーラーは裁定者として、完全悪を裁くための存在。その役割を彼は自分の私利私欲のために活用しようとしました。私を殺すことができなかったので、能力は写っていませんでしたが」
リブラは頭痛で頭を抱えているルーラーに対して、頭と頭をくっつける。そして白く濁った目を開く。
「うわぁあああ!!」
ルーラーがのたうち回ったあとに、倒れる。
「こんな力、欲しくはなかったんです。この力さえなければ、お姉ちゃんも死ぬことはなかったし、苦しむことはなかった」
目をつぶりながら、涙を流すリブラ。
「その力は、私には効くの?」
テンシーは尋ねる。
リブラは首を振った。テンシー、エーナインはとても綺麗な白い心を持っており、この能力の行使はできない。真っ黒な心を持つモノなどほとんどおらず、役にたつことも少ない能力なのだと語った。
「だから、怖がられるだけで、何も良いことなんてありませんでした」
「あなたはどうしたいの?」
テンシーが尋ねる。
「もう、ひとりは嫌」
涙を流しながら、リブラはそうつぶやく。
テンシーはリブラにかけより、そっと涙を拭いてやり頭をなでる。
「私とエーナインには効かない。なら問題ない」
「つれてってくれますか」
「うん」
そういうと、リブラはテンシーに抱きついて、大声で泣いた。
エーナインも二人に駆け寄り、優しく微笑む。
「素直になるのは大変。私もそう。エーナインに対してとかは特に」
そういって、けだるげな様子をみせるテンシーであったが、その表情はとても明るいものだった。
「ようやく、ルーラーの協力をとりつけられたようね」
そういって、テンシー達の様子を見るアイ。
「まったく。最初はどうなることかと。これで、計画を実行に移せるわね」
そういって、準備に取りかかり始めるアイ。彼女の心は漆黒に輝いていた。
【短編版】天使と悪魔がAIしてる 譚タリヲン @kgs
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます