ヲタ芸はかなりきつい
そんな唐突過ぎる出会いを経て、僕は自宅へと戻る道の最中、今日の話の内容を回想していた。
「『オタ芸』やってるんだよな?」
久野の言葉を脳内でリフレインする。
どこで、僕は間違えたのだろうか?何も間違ったことは言っていないはずだし、出てきた単語に対する認識も間違っていないはずだ。気になってスマホでブラウザを開く。
「『オタ芸』っと。」
検索にかけてみた。
「オタ芸とは、コンサートなどにおいてファンが繰り広げる、独特な動きを伴う踊り、ダンス掛け声のことである。文字通りアイドルオタク(追っかけ)等がアイドルや声優などのコンサート・ライブなどで行っている、アイドルのために捧げる応援の芸(パフォーマンス)、応援方法である。(Wikipedia参照)」
「だよな、間違ってないよな。」
改めて自分の認識の正確さに安堵する。
が、よく見てみると解説はもう少し続いているようだった。画面を下へとスクロールする。
「現在では、「オタ芸」と表記されるものは、アイドルを応援するための芸(通称:地下芸)。「ヲタ芸」と表記されるものは、観衆に向けて行うパフォーマンス(通称:サイリウムダンス、サイリウムパフォーマンス)と分類されている。(同じくWikipedia参照)」
「なんだって⁉」
もしかして彼らが言っていたのは「ヲタ芸」(又はサイリウムダンス)のことではないか?
そんな疑問から適当に、Youtubeでヲタ芸と検索し、一番上に出てきた動画「『推しの曲』で打ってみた。」をクリックする。すると、そこには……。
5~7人くらいのメンバーが一糸乱れぬ動きで、キレッキレのダンスを踊っていた。その姿を見て僕は、死ぬほど格好いい。そう思った。ヲタ芸と自分のやっているそれとが、全く別のものであることに気づいた。
「しまった。こんなことはしてない。少なくとも今の自分にこのレベルは無理だ。」
そんな僕の意識を引き戻したのは、その打ち曲だった。それは自分のよく知るものだった。
「風谷
そう、僕の推しているアイドルグループのしかも推しのメンバーのソロ曲だった。そして、この曲はかなりマイナーで、相当なコアなファンのみぞ、知るものだった。もしかして、このチームの人たちの誰かは、「ステラ推し」なのか?
オタクの血が騒いだ。推しへの愛は自分が一番だという、オタクのエゴが。
「今のあんなパフォーマンスじゃ、ダメだ。絶対にこの人たちの愛には勝てない。でも、負けられない。ステラへの気持ちは僕の方が上だ。」
それが僕の大きな勘違いであったことは後々判明する事実である。
そのまま動画はサビへと突入した。
「あれ、この動き、もしかして、サンダースネイク?」
彼らの動きが、見覚えのあるものへと変化した。
「なんだ、このキレッキレのサンスネ。これがヲタ芸verか。」
オタ芸とヲタ芸が全く別物であることを理解した僕は、客観的に動画が見れるようになっていた。普段、僕らがライブでやってる動きとそっくりなのだ。動き自体は。
速度もキレも。それ以外はなにもかも違ったけれど。そして曲はサビも終わり、アウトロへ……。
「いやいや、これは、ロマンスでしょ。」
そこには、僕らの伝家の宝刀であり、十八番であり、原点にして頂点たる「ロマンス」という動きだった。この腕の大きな振りと共に掛け声を上げる。その動きそのままだった。まあ先程のサンスネと同じく、速度やキレ、
細かいところは全く違ったけれど。
「腰の曲がり方えげつな、速度もやばいし、腕の動きも大きいし。これがヲタ芸。」
一瞬にして、僕はヲタ芸の虜になってしまった。
「ヲタ
自分の推しへの想いをこの光の軌跡に乗せて伝えたい。そのために僕はヲタ芸をする。
そんな不純な動機から、僕は今日、中央公園東ステージに向かうことを決意した。
サンダースネイク参考動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=5kVwVSsUuHo
ロマンス参考動画↓
https://www.youtube.com/watch?v=IVw4-YYt0D4&t=219s
君のため、今日も僕は光る棒《サイリウム》を振り回す。 久瑠井 塵 @haten-manimani
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