運転は大丈夫?
十二月二十三日。
今日は幻十郎さんと話し合いをする日だ。
本来の目的は御曹司との婚約解消が成功したことを伝えるだけなのだが、おそらく幻十郎さんはこれを機に舞を連れ戻そうとするだろう。
だからこの話し合いで俺と舞の関係を認めさせる必要があった。
いつもより早めに仕事を終えた俺は、会社の近くにあるコンビニ前にやってきた。
だが、待ち合わせをしていた舞が来ていない。
「おかしいな……。もう来ているはずなんだが……」
その時、俺のすぐ前に自動車が停止した。
それは俺が普段乗っている自家用車のSUVだった。
だが、動きがぎこちない。
停止する時でさえガクガクというありさまだ。
運転席から楓坂が引きつった笑顔で顔を出した。
「か……。和人さん。お待たせしました……」
「ありがとう。……もしかしてペーパードライバーなのか?」
「安心してください。今から本気を出すところだったんです」
「そのセリフ、よけい不安になるんだけど……」
今から幻十郎さんの屋敷に向かうため、楓坂が俺の自家用車で迎えにきてくれたのだが、まさかペーパードライバーだったとは……。
楓坂ってPCスキルと料理は得意だが、それ以外は基本的に不器用なんだよな。
だが本人にその自覚はないらしい。
ハンドルを握った楓坂は「ぶー」とほっぺたを膨らませて反論をしてきた。
「運転が下手とか思ってるでしょ? 失礼ですね。こう見えてカーブを曲がる時は顔がシブくなれる自信がありますよ」
「それ、アレだろ。有名なカーレース漫画みたいにドリフトができるって言いたいんだろ」
「はい、ドリフトです。そう、ドリフト!」
「……さてはドリフトがなんなのか知らないな?」
ドリフトというのはあえてタイヤを滑らせてカーブを曲がるテクニックらしい。
実は俺もドリフトのことは詳しくないが、危険だということは知っている。
もちろん楓坂にそんな芸当ができるはずがない。
たぶん漫画かアニメを見て、自分もできるはずと思い込んでいるのだろう。
「とにかく、運転は交代だ」
「えー。やっと調子が出てきたのに……」
っていか、普通に停車することすらままならないのに、どこからそんな自信が出てくるんだ。
むしろこれで調子が出てきたとなると、このまま運転させたら何が起きるか不安で仕方がない。
とにかく楓坂に運転はさせられない。
時間に余裕が出来たら、しっかりと運転練習に付き合ってやらないとな。
俺が運転席に座ると、楓坂は不満そうに助手席に座る。
表情から「本当はちゃんと運転できるのに……」という心の声が聞こえてきそうだ。
ここは話題を逸らした方が良さそうだな。
「そういえば、幻十郎さんは俺達の事をどう思ってるんだろうな」
「話、そらそうとしてます?」
「し、してないよ?」
「声が裏返りましたよ」
「……」
こういうところは勘が鋭いんだよな。
なんていうか、俺の心は全部お見通しっていうか……。
「で、幻十郎さんの反応だけど、どうだ?」
「つい最近も電話でやり取りをしましたけど、クリスマスには帰ってくるんだろって念押しされましたね」
「やっぱりそうなのか……」
「お爺様も和人さんのことを認めてはいますけど、私との関係に関しては別の話という印象ですね……」
やはりか……。
これは気を引き締めて行かないといけないな。
◆
車で一時間半ほど移動し、俺達は幻十郎さんの屋敷に到着した。
「いよいよですね……」
「ああ」
以前来た時も思ったが、やはりこの屋敷はデカい。
建物全体から威圧感がハンパなく溢れている。
……と、ここで俺は隣に立っている楓坂の手が震えていることに気づいた。
「緊張しているのか?」
「ええ……。だって、今日の話し合いが失敗したら、和人さんと会えなくなるもの……」
楓坂がここまで緊張するなんて……。
俺は彼女を安心させてやりたくて、優しく手を握った。
そして不器用ながらも笑顔を作ってみせる。
「きっと大丈夫だ。舞と同居生活をするようになって約三ヶ月。いろいろあったが、俺は成長できたと思ってる。舞のおかげだ」
「和人さん……」
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
■――あとがき――■
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次回、反対する幻十郎……。そこに助っ人が!?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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