ナイトパレードで二人は……


 ホラーアトラクションを出た俺達は、香上に指定されたスポットを順番に回った。


 正直、テーマパークで遊ぶなんてガキの頃以来だったので、迷わずに楽しめたのは幸運だったのかもしれない。


 そして時間はあっという間に過ぎ、日が沈んで空が暗くなった。

 

「観覧車にフォトスポット、そして夕食。午後からの入場にしては楽しめたな」

「香上さんが教えてくれた順番は、ちょうど混雑時間を避けて回るルートだったみたいですね」

「ああ」


 夜のテーマパークは昼とは違った雰囲気に包まれていた。

 これから何が起きるのかわからないという妙な期待感が、俺を含む来場者達の気持ちを高めてくれる。


 子供の頃、よくこんな気持ちになったものだ。


 そして俺はこれから始まるナイトパレードを観るため、香上がイチオシする中央広場の観客席で待機をしていた。


「最後はナイトパレードか。こういうのって初めてなんだよな」

「ここの名物ですよ?」

「イベントを開催する時に何度か来たことはあるんだけど、観客としてパレードを見るのは初めてなんだ」


 そう。俺はこのテーマパークに何度か来ている。

 少し前ならハロウィンイベントをこのテーマパークで開催していた。


 そう言えばあの頃、楓坂や結衣花と一緒に自宅でハロウィンパーティーをしたっけ。


 時間が流れるのって早いよな。


 ……あれ?


 ということはもしかして、俺は香上と会っていた可能性があるということか。


 香上はこのテーマパークでバイトをしているから、イベントの時に話をしていたのかもしれない。


 改めて思い返すと、香上って妙に馴れ馴れしいところがあったし……。


 でもここのスタッフさんって仮装して、顔にはフェイスシールまで貼ってあるから、素顔がわからないんだよな。


「くしゅん」


 可愛らしくクシャミをしたのは楓坂だった。

 日中は暖かい方だったが、さすがに夜になって冷え始めたのだろう。


「舞。俺のジャケットを使ってくれ」

「はい、ありがとうございます」


 俺がいつも着ているブルゾンジャケットを羽織った楓坂は「暖かい」と呟いて、幸せそうに微笑んだ。


 もちろんメンズ用でサイズもブカブカだが、楓坂は気に入った様子だ。


「和人さんは寒くないの?」

「ああ。むしろちょっと暑かったんだよ」

「私のためにやせ我慢してない?」

「してないって」


 本音は少し寒いのだが、今はカッコを付けさせてくれ。


 ここで園内放送が流れた。


『まもなく、クリスマス限定バージョン、スペシャルナイトパレードが始まります』


 いよいよか。

 テレビで何度か見たことはあるが、やはり初体験というのはドキドキするものだ。


 楽しそうなBGMが始まると共に、ナイトパレードが始まった。


 イルミネーションで飾られた大きな汽車が、ゆっくりと園内を回り始めた。

 汽車は一つではなく、次々と現れる。


「こうしてみると、想像していた以上に豪華だな……」

「特に今はクリスマス限定バージョンですからね」


 煌びやかなナイトパレードは見ている観客を次々と魅了していった。

 子供達は楽しそうにはしゃぎ、学生達はスマホをかざして撮影する。


「無愛想で他人とうまくやっていく自信がなかった俺が、カノジョと一緒にナイトパレードか……。何が起きるかわかんねぇよな」

「これから何があっても、私はあなたのそばにいますよ」


 楓坂が俺の手を握ったその時だった。


 ピーッ! という、汽笛の音と共に、ひと際大きい汽車が現れる。

 その上ではテーマパークのマスコットがダンスを踊っていた。


「……ヤカン先輩かと思ったぜ」

「あ、私も同じことを考えました」


 俺達がいい雰囲気になるとよくヤカンの音がして邪魔をしていた。

 そのことを思い出し、俺達は二人そろって吹き出すように笑った。


 ……が、今日は違った。


 ドン! ドン! ドン!


 汽笛の合図は、花火が上がるサインだったのだ。

 暗い空に、綺麗な花火が咲いた。

 同時に、大きなクリスマスツリーのLEDが点灯した。


 最高の感動が俺と楓坂の前に現れる。


「綺麗ね……」

「ああ……」


 いつの間にか俺は楓坂を抱きしめていた。

 そして彼女を引き寄せる。


 楓坂は全てを託すように、俺に身を任せた。

 今まであった彼女のとの間にあった壁が全て消え去ったようだ。


 花火が上がる中、俺は楓坂にキスをした。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、幻十郎への報告に向けて!


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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