ホラーアトラクション


 テーマパークにやってきた俺と楓坂は、季節限定のホラーアトラクションにやって来ていた。


 看板には『絶望と悪夢を叩きこむ、最凶超絶ホラーアトラクション』と書かれている。


 アトラクションの内容は歩いて回るタイプのもので、昔からあるお化け屋敷のゾンビバージョンと言ったところだ。


 だが、作り込みから演出まで、その内容はかなりのこだわりが見られる。


 俺と楓坂が手を繋いで歩いていると、壁を突き破ってゾンビが現れた。


「グガアァァァァ!!」

「きゃあー!」


 突然現れたゾンビに悲鳴を上がる楓坂。

 だがその表情はイキイキとしている。


「見て、和人さん。あのメイク、キモかわいい!」

「悲鳴の内容がおかしいだろ……」


 とはいえ、その気持ちもわからなくはない。


 俺はイベント会社で働いているから、こういうホラーアトラクションの設営技術や演出は見ているだけで面白い。


「ここのホラーアトラクションってクオリティが高いな」

「そうね。この装飾なんて、本当に鉄が腐っているみたい」

「本当だ。パテで凹凸を作ってペイントスプレーを重ねてるんだな。スタッフの教育もしっかりしている。うちでも働いてくれないかな」

「完全に仕事目線ね」

「それは楓坂もだろ? 次の動画投稿のネタにする気満々じゃないか」

「バレました?」


 しかし楓坂って怖がりだと思っていたけど、意外とそうでもないんだな。


「楓坂が怖がるんじゃないかと思って心配したけど、必要なかったみたいだな」

「私を怖がらせたかったら、この十倍怖いものが欲しいですね」

「現状でもかなり怖い方なんだけど……」


 そんな会話をしている時、再びゾンビが現れた。


 男ゾンビで全身を青色。さらに血ノリは蛍光色と、これもまたこだわりが見られる。


「グガアァァァァ!!」


 俺達の方へ走ってきた男ゾンビは楓坂の前で立ち止まり、威嚇するように叫んだ。


 そんなゾンビに俺は睨みつけて言う。


「おい、ゾンビ。仕事なのはわかるが、俺のカノジョに近づきすぎだろ」

「あ……、すんません……」


 世界観をぶっ壊すような俺の一言に、ゾンビをしていたスタッフはペコリと頭を下げて去って行った。


「ゾンビさん、謝ってましたね」

「意外と真面目な人だったな」


 つい言ってしまったが、あの人は普通に仕事をしていただけだ。悪い事をしてしまった。


 すると俺の隣で楓坂がクスクスと笑い出した。


「でも、ホラーアトラクションでヤキモチを焼く人なんて初めて見ました」

「今のは守ろうとして……」

「素直になって欲しいのですけど?」

「……ま。ゾンビでも男が近づいてきたら気分悪いな」

「うふふ」


 そう……。俺がどうしてあんなことを言ったのかと言うと、それは楓坂に男が近づいたことが気に入らなかったからだ。


 もちろんゾンビが楓坂のことをナンパしようと考えていないことはわかっている。

 だが、俺と楓坂の空間に他の男が入ってきたことが、無性に気に入らなかった。


 振り返ってみるとガキのような感情だ。


 こんな俺を楓坂はどう思っているんだろうか。

 子供みたいだ……なんて考えているのかな。


 すると楓坂は掴んでいた俺の腕を、きゅっと強く握った。


「実はですね。私、ホラーアトラクションって苦手なんですよ」

「でも、さっきから余裕じゃないか」

「だって、和人さんが一緒だもの」


 それは俺と一緒だから怖くないって意味なのか?

 だがさっきから楽しんでいるように見えるけど……。


「私ね、今まで誰かに守って欲しいって気持ちが強かったの。でもこれからは、和人さんのことを支えられるようになりたい」


 じゃあ、さっきまで楽しそうにしていたのは、俺を楽しませるためにあえてはしゃいでいたということか。


 なんだよ。そんなふうに言われたら、可愛くて抱きしめたくなるだろ。


「今でも十分に支えてもらってるよ」

「もっと支えたいの」

 

 そう言うと、楓坂は俺の体に抱きついてきた。


「ぎゅー」

「それは支えるというより、甘えてるって感じだけどな」

「こうしたい気分なんだもん」

「じゃあ、俺も」


 楓坂の腰に手を回したその時、再びゾンビが現れた。

 だが……。


「ギャオオォ……お?」


 俺達が抱き合っている姿を見たゾンビは頭の後ろをかいた後、静かに退散していった。


「ここのゾンビさん。気が利くよな……」

「そうね……」


 その後、順調に進むことができて、俺達はホラーアトラクションから出ることができた。


 明るい陽射しが外に出たという解放感を与えてくれる。


「やっと外に出れた」

「結構長かったですね」

「そうだな」


 これで香上が教えてくれた最初のオススメスポットはクリアだ。


 最初はとんでもないところを勧めてきやがったと呆れたが、振り返ってみるとデートにちょうどいいアトラクションだったな。


 楓坂との仲もさらに深まったような気がする。 



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、ナイトパレードで二人は?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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