香上がオススメするラブキュンスポット


 テーマパークへやってきた俺は、再び香上こうがみ姫乃ひめのと出会った。

 どうやら彼女はここでもバイトをしていたらしい。


 香上は園内マップを広げてマジックで数字を書き、俺に手渡した。


「簡単だけど私がイチオシするラブキュンスポットを記しておいたから、この順番に回ってみて」

「おう、ありがとう……。でも、なんでここまでやってくれるんだ?」


 すると香上は頭の後ろをかきながら言う。


「んー。なんでって言われると、単純に乗り掛かった舟だから程度なんだけど……。やっぱりお爺ちゃんが助けた人だから、応援してあげたいからかな」


 これまでのやり取りでも知っていたが、香上も爺さんのことをかなり好きなようだ。


 そんなに魅力のある人だったんだな。

 楓坂が今でも尊敬してるだけのことはある。


「とーにーかーく。笹宮さんは楓坂さんを喜ばせることに集中すること。いい?」

「ああ、わかったよ。いろいろとありがとう」

「いいって。じゃあね」


 香上は雑な感じで片手を振って、別の来場者の元へ行ってしまった。

 一見するとギャルみたいな感じだが、仕事ぶりからみると真面目なんだろう。


 すると、近くに飾られていたぬいぐるみを見ていた楓坂が近づいてきた。


「姫乃さんとお話は終わりましたか?」

「ああ、オススメスポットを教えてもらったよ。……ん?」


 ここで俺は、とある違和感に気づいた。


 なぜ楓坂は香上の下の名前を知っているんだ?

 俺はアパレル店で彼女の名前を聞いているが、その時に楓坂は試着室に入っていた。


 ついさっきオススメスポットを教えてもらう時の声が聞こえたとしても、下の名前は俺も香上も話していない。


 もしかして知り合いだった?

 いや、それはないはずだ。


 アパレル店で香上に会った時、楓坂の反応は間違いなく初めて会った時のものだった。


「なぁ……。舞って店員さんの名前を知ってたっけ?」

「はい。アパレル店で試着していた時に、二人の会話を聞いていましたから」

「え……、マジ?」

「うふふ。その和人さんが驚く顔、期待通りですね」


 そういうことだったのか……。

 どうもアパレル店を出た時から、いつもの楓坂とどこか違うと感じていたんだよな。


「それにしても、まさか和人さんが香上お爺様に対抗心を持つなんて思いませんでした」

「もしかしてジャケットを脱いだのもそのためか?」

「本音を言えばそうですね。ヤキモチで嫌な思いはさせたくありませんから」


 そして楓坂は俺の腕に抱きついた。


「和人さんが私のことを考えて行動してくれる……。そう思えるとすごく安心できるの。これって大金を使ったデートプランより価値がありますよ」

「安心感……か」


 テーマパークに到着してすぐの時に、『ヒロインの特権』とか言っていたのは、この安心感のことを言っているんだろう。


 実際、安心感を与えるって簡単なことじゃない。

 本当に相手のことを想っていなければできないことだ。


 楓坂は安心感と言う形で、『俺が誰よりも楓坂を大切にしてる』という気持ちを感じ取っていたというわけか。


「じゃあ、行きましょう。一つ目のオススメスポットは何ですか?」

「えっと……、最初に行くのはホラーアトラクションだな」

「デートの定番ですね」


 こうして俺達は最初のオススメスポットに向かった。


 香上はラブキュンとかなんとか言っていたが、ここってホラーアトラクションだろ。


 まぁ、こんなのは作り物ってわかってるし、カップルがくっつくための口実程度の内容に決まってる。


 そう思っていたのだが……。


「なっ……。絶望と悪夢を叩きこむ、最凶超絶ホラーアトラクション……だと……」


 なんだぁ、これ!

 看板だけでもメチャクチャ怖いぞ!!

 通りすがりの子供が泣いてるじゃないか!!


 出口から出てきた来場者はあまりの恐怖に震えていたり泣いていたりしている。


 それを見た楓坂は……、


「きゃっ。楽しそう」

「悪夢とか書いてるのに!?」

「さ、早く行きましょう」

「ま、待て。まずはお土産コーナーでぬいぐるみを……」

「なに女子みたいなこと言ってるんですか。早く入りますよ」


 こうして俺達はホラーアトラクションを体験することになった。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・♡応援、とても励みになっています。


次回、ホラーアトラクションを体験した笹宮達。はたして……。


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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