楓坂が憧れた人
アパレルショップで楓坂が試着室に入っている時、私服姿で現れたのは
そして彼女は、楓坂と関係のある人物の孫だと言う。
ベンチに座りながら、俺は隣にいる香上に訊ねた。
「三年前に楓坂を助けたのは、香上の爺さんだったのか」
「そっ! ……お爺ちゃんはさ、雑誌のルポライターみたいなことをしながら、変わった事件とかを解決するような人だったの」
「なんか漫画や小説に出てくる主人公みたいな人だな」
「あはは。まさにそれ」
明るく笑う香上だったが、ふっと物思いにふける表情をして、楓坂が入っている試着室を見た。
「もうお爺ちゃんは亡くなっちゃったけど、その時に助けた人がこうして元気にしているのを見れてよかったって思ってる」
なんとなくではあるが、香上も自分の爺さんのことが好きだったのだろう。
そんな雰囲気が彼女の横顔を見ていると伝わってくる。
「何があったのか、聞いてもいいか?」
「ええ、いいわよ」
香上はカバンから古い手帳を取り出した。
男性モノみたいだ。もしかすると爺さんの形見かもしれない。
「三年ほど前にさ、『週末の災い』って言う都市伝説が流行ったの」
「週末の災い?」
「歴史に影響を与えるほどの仮説を公開すると、毎週土曜日に発見者が不幸に見舞われるっていう都市伝説ね」
「……なんだそれ。メチャクチャすぎるだろ」
「だから都市伝説なんだって」
香上は手帳をめくりながら、説明を続けた。
「簡単な理屈はよくあるタイムリープネタの亜種ね。歴史に影響を与えて世界線を変えてしまった人を消去することで、元の世界線に戻ろうとする世界の意思とかなんとか~って話」
なんかそういうの、映画とかアニメで聞いたことがある。
過去に戻って人生をやり直そうとしても、いろんな出来事が起きて、なかなかいい方向に向かわないんだよな。
そして主人公が歴史を変えるために奔走するんだっけ。
俺も一時ハマったなぁ。
「でもそれって都市伝説……なんだよな?」
「ええ。実際にそんなのあるわけないっしょ」
香上は肩をすくめて、苦笑いをしてみせた。
だが、すぐに真面目な表情に戻す。
「でも三年前、楓坂さんにそれっぽいことが起きたの。不自然な事故が楓坂さんの周りで立て続けに起きたのよ。その時に楓坂さんを助けたのが私のお爺ちゃん」
たまに都市伝説をリアルで体験した人がいるって話を聞くことがあるが、楓坂もその一人だったのか。
「それでどうなったんだ?」
「結局のところ週末の災いはウソで、真相は楓坂さんの親類の人が隠していた新技術を狙って、他の会社が嫌がらせをしていたってことみたい」
「つまり、そのことを解き明かしたのが香上の爺さんってことか」
「そういうこと」
こわっ! つまりオカルトかと思ったら、実は一番怖いのは人間でしたって話かよ。
とはいえ、楓坂の祖父・幻十郎さんはゴルド社の会長だし、きっと父親もそれなりの地位の人だろう。
ありえなくはない話か……。
「でもさ。ずっとあのジャケットを着ているってことは、まだお爺ちゃんのことが忘れられないんだろうね」
「……恩人の形見だしな」
すると香上は「はぁ~」とため息をつく。
「もしかして笹宮さんって鈍感系?」
「よく言われるが、俺は認めていない」
「現実を受け入れないと成長できないよ?」
え? なんでここで呆れたような目で見られてんの?
俺、またなにかしちゃいました?
「女子がさ、恩人の形見ってだけでいつまでも同じジャケットを着続けたりしないって」
「楓坂はお守り代わりにとか言っていたが……」
「それ! そういうことよ!」
さっきまで楽な姿勢で座っていた香上は前のめりになって、俺に人差し指を向けた。
つーか、近いって……。
ソーシャルディスタンスはどうした、店員さん。
「楓坂さんの中で自分を守ってくれる英雄は、今もお爺ちゃんのままってこと。でも今は笹宮さんがカレシさんなんでしょ?」
「そうだが……」
「このままでいいの? 今のままだと笹宮さん、お爺ちゃんに負けてるよ?」
恩人という認識しかなかったので気づけなかったが、言われて見れば確かにそうだ。
「そう言われると……、ちょっと複雑な気分だな……」
「でしょ? だから……、はい」
「なんだ?」
「ホラーアトラクションのチケット。すっごい怖いらしいから、頼り甲斐があるところをアピールしてきなよ」
俺に無料パスチケットを渡して「にっ!」と笑う香上。
なんか狙っているなと思っていたら、どうやらこれを渡すタイミングを計っていたらしい。
しかし、ホラーアトラクションか。
当初の目的だった服装の買い物も終わったし、行ってみるか。
■――あとがき――■
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次回、テーマパークでイチャラブしてもいいですか!?
投稿は【朝7時15分頃】
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