服装選びは彼女のペースで
アパレル店にやってきた俺と楓坂は、店員さんに案内されてメンズフロアにやってきた。
カジュアル感が強めの店だが品ぞろえは豊富で、オーソドックスな品から上品なアイテムまで数多く揃えている。
「メンズフロアにやってきたが、どんな服にしていいのかわからないな」
「安心して。イメージは固まっているから」
すると楓坂はスマホでオシャレな男性モデルの画像を表示した。
「どうかしら?」
「……これ、モデルがイケメンすぎるだろ」
「大丈夫よ。和人さんならきっと似合うわ」
自信満々に言ってくれるのは嬉しいが、こういうのってプレッシャーなんだよな。
とはいえ、今は楓坂に任せるしかない。
自慢じゃないが、俺にファッションセンスはないからな。
緊張しながらも、俺は楓坂が指定した服に着替えてみた。
「どうだ?」
「うん、似合ってる。こっちのピンクのシャツも試してみない?」
「絶対に似合わないって」
「だ~め。今日は和人さんをフルモデルチェンジするのが目的なんですから。それにデートで服装選びをする時には、男性は女性の言いなりになるのが成功の秘訣なのよ」
「そんな話聞いたことないんだけど?」
「今さっき考えたから、そうでしょうね」
相変わらずの唯我独尊だ。
とはいえ、楽しそうにしているのは見ていて伝わってくる。
ピンクのシャツには抵抗感があるが、ジャケットと組み合わせればなんとかなるだろう。
「はぁ……。わかったよ」
「うふふ。楽しみ」
こうしていろいろと試着をして、いくつかの商品を購入した。
もちろんその中にはピンクのシャツも入っている。
ちなみに今の俺の服装は、購入した中から楓坂が特にイチオシしてくれたコーデに着替えている。
ジャケットこそベージュ系だが、比較的落ち着いた色の組み合わせなので着こなしやすい。
こうしてデートの続きをしようと外に出ようとした時、飾られている女性の服装が目に入った。
俺が立ち止まったのが気になった楓坂が訊ねてくる。
「どうしたんですか?」
「あー。いや……。あの服、舞に似合いそうだと思って」
「どれ?」
それはキャミソールワンピースと白いシャツの組み合わせだ。
品のいいデザインはお嬢様キャラの楓坂にピッタリだと思った。
「ふぅん。和人さんにしては奇跡的にセンスがいいですね」
「バカにしてるのか?」
「愛してる」
「愛し方が歪んでない?」
「その方が素敵でしょ」
「素敵とは思わないが、面白いことは否定できないな」
服装選びだけでこんな軽口を叩き合えるのも楓坂だけだろう。
ちょっとひねくれたところも楓坂の魅力だということを俺は知っている。
「じゃあ、せっかくだし試着してみようかしら」
「ああ」
服を持って試着室に入った楓坂だったが、すぐにカーテンから顔をのぞかせた。
なんだろうか。
何か忘れ物でもしたのか?
俺がきょとんとした表情をしていると、楓坂は女神スマイルでポツリと言う。
「笹宮さん」
「ん?」
「好き」
そう言ってすぐに楓坂は試着室に入った。
……ったく。不意打ちでドキッとさせやがって。
最近はずっと下の名前で呼んでいたのに、急に苗字で呼んだのも、初々しい気持ちを伝えるためだったのだろう。
なんか、俺の感情は楓坂にペースを握られっぱなしだな。
楓坂が着替えている間、俺はすぐ近くにあった木製のベンチに座った。
――その直後、俺の隣に細身の女性が座った。
「よっと」
明るい髪を後ろで束ねた美少女。
少し強気に見えるが、話しやすそうな雰囲気がある。
そして俺は彼女のことを知っていた。
さっきメンズフロアに案内してくれた店員さんだ。
「あれ? さっきの店員さん?」
「ええ、
「ああ、構わないぞ。俺は笹宮だ」
「よろしく、笹宮さん」
接客をしているだけあって、コミュが高いな……。
「えっと……、高校生か?」
「そうよ。高二。JKってやつね」
高二ってことは結衣花と同じ学年か。
香上と名乗った美少女は抑えきれない好奇心を表情に出し、俺にずぃ~と近づく。
「笹宮さんって、楓坂さんのカレシさん?」
「そうだが……、楓坂と知り合いなのか?」
「ううん。お爺ちゃんから話を聞いていただけ。あのデニムジャケットはお爺ちゃんのだからすぐにわかったわ」
デニムジャケット……? お爺ちゃん……?
えっ……。それってまさか!
「じゃあ、三年前に楓坂を助けた人って香上の爺さんなのか?」
「ええ、そうよ」
■――あとがき――■
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次回、香上が驚きの提案を?
投稿は【朝7時15分頃】
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