結衣花が提案するデート内容
月曜日の朝。
今日も俺は会社に行くため通勤電車に乗っている。
俺だけかもしれないけど、月曜日ってなんか体が重く感じるんだよな。
まぁ、だからと言って金曜日は体が軽いのかと言われると、そうではないのだが……。
そんな憂鬱を吹き飛ばしてくれるのは、フラットテンションのあの声だった。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
抑揚が少ないナチュラルなトーンで挨拶をしてくれる女子高生。
結衣花とこうして挨拶をすることで、俺の一日は始まる。
だが、今日の彼女はいつもと違った。
「はぁー」
「なんだよ。いきなりため息して……」
「ため息したくもなるよ。なんで私まで恋愛バラエティに出ることになるかなー」
「俺だって予想外のことなんだ。巻き込んで悪かったって思ってるさ」
先日のイベントでジュエリーショップの社長・レヴィさんが、突然恋愛バラエティイベントを開催すると宣言したのだ。
とはいえ、そこまで本腰を入れたものではない。
楓坂・結衣花・音水の三人とデートをし、その内容をブログで公開。そしてその中から一人を選んで指輪をプレゼントするというもの。
もしかしたら簡単な動画を作って配信をするかもしれないが、顔は隠すことになるだろうし、日常生活まで撮影されるわけでもない。
「確かデート内容は私達で決めていいんだよね?」
「ああ、そうだけど」
改めて訊ねてくるという事は妙案があるのか?
結衣花ってたまに奇策を考えてくるからな。
そして彼女が選んだデート内容とは……。
「じゃあ、私はお兄さんと電車デートってことでいい?」
「なんだそれ?」
「今こうやって電車で話していることをデートってことにして報告して欲しいの。それなら、特別なことをしなくていいでしょ?」
つまりこの毎朝のやり取りをそのままデートとして報告するわけか。
それなら時間も手間も節約できるし、お手軽だが……。
「適当だな」
「どうせお兄さんは楓坂さんを選ぶんでしょ?」
「まぁ、そうだけど……」
「じゃあ、私が必死になる意味なんてないじゃない」
それを言われてしまうと、ぐうの音もでない。
「まぁ、舞とのデートも近場のカフェで済ませるつもりだし、そこまで肩に力を入れる必要はないかもな」
俺の言葉を聞いた結衣花は「ふーん」と声のトーンをあげた。
「楓坂さんのことを下の名前で呼ぶようになったんだ」
「ああ。ま~、なんかそういうことになった」
やっべ。つい楓坂のことを舞と呼んでしまったが、結衣花の前で言うのはあからさまだったか?
結衣花にとって楓坂は一番親しい先輩。もしかすると機嫌を損ねたかもしれない。
だが彼女の様子はそうではなかった。
「いいんじゃない? やっとカレカノっぽくなってきたよね」
「そうか?」
「うん。それにこの恋愛バラエティ企画でしっかりと楓坂さんとの仲を示すことができれば、幻十郎さんに認めてもらえるし、一石二鳥だね」
幻十郎さんの名前が出て、俺はハッとした。
「あ、そっか。そうだよな」
「えー。気づいてなかったの?」
「いやぁ。はは……。予想外の出来事が続いたから、幻十郎さんのことをすっかり忘れてた」
「はぁ……。何のためのサプライズだったのか忘れてたんだね……」
むぅ……。面目ない。
でもさ、あんなにいろんなことが起きたら、誰だって当初の目的を忘れてしまうだろ?
俺は悪くない……。悪くない……よね?
「となると、気になるのは音水さんだよね。たぶん本気でお兄さんにアプローチしてくると思う」
「音水が?」
正直、結衣花がどうして音水のことを心配しているのかわからなかった。
確かに音水は俺に好意を抱いていると思う。
だが、今まで先輩後輩という関係を超えてまでアプローチすることはなかった。
たまに変なことを言ったり勘違いすることはあったが、音水は節度を守れる真面目なOLだ。
むしろ今回の恋愛バラエティで一番困っているのは音水じゃないかと心配しているくらいなのに。
「音水が? うーん、どうだろうな……。あいつ真面目すぎるから緊張して何もできないと思うけど」
「むしろお兄さんをホテルに連れ込もうと考えてるかも」
「ははは。音水がそんなことするわけないだろ。大丈夫だって」
俺が軽く笑うと、結衣花は呆れたような表情で冷たい目を向けてきたので、俺はたじろいでしまう。
「え? なに、その目」
「……ある意味、お兄さんと音水さんってお似合いだなーと思って」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
☆評価・♡応援、とても励みになっています。
次回、音水ちゃんの意気込みは!?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます