午後のあまあま、ヤカン先輩再び
日曜日の午後。
俺は自宅のリビングに寝転がって、のんびりと過ごしていた。
こんなにまったりと過ごせるのは、ずっと抱えていた問題が解決して安心したからだろう。
「少しのんびりしすぎかな」
そうつぶやくと、楓坂が俺のすぐ傍に腰を下ろし、スマホをいじりながら話しかけてくる。
「それが正しい日曜日の午後じゃありませんか?」
「確かに」
日曜日の午後だからこそ、まったりしたいものだ。
むしろそれこそ理想ではないかと思う時がある。
「なにもしないで休日の時間を無駄に過ごすのって、最高の贅沢だよな」
「ここにスイーツがあればなお良しなのですけど?」
「事前に買っておいたプリンがあるけど?」
「仕方ないですね。いただきましょう」
「欲しかったんだろ」
俺の勝手な考えだが、日曜日に食べたいものランキングをあげるならプリンとアイスクリームは必ず上位に入ってくる。
さらにそこに美味いコーヒーがあればなおのこと良し。
さっそく冷蔵庫からプリンを取り出し、続けてコーヒーを淹れる。
楓坂は紅茶が好きだけど、やっぱりプリンに合うのはコーヒーだろう。
ローテーブルの上にコーヒーを置き、楓坂にプリンを渡す。
リビングのカーペットの上に足を崩して座っていた楓坂は、ふたを開けてプリンを一口食べた。
瞬間、顔は幸せ色にほころぶ。
「おいしっ。プリンってカロリーを無視して食べたくなる魅力がありますよね」
「楓坂でもカロリーとか気にするんだな」
「女性で気にしない人なんていないんじゃないかしら」
「そういうものなのか?」
ここで俺が不思議に思ったのは理由がある。
それは可愛がっている後輩の音水が、結構カロリー無視で食いまくるからだ。
にも拘らずスタイルは抜群。肌も女子高生と比べても遜色のない艶があるんだよな。
「音水とか平気で特濃にんにくラーメンをがつがつ食べたりしてるぞ」
「え……。それ本当ですか」
「ああ。さらにライスをセットで注文するくらいだ。あれであのスタイルなんだから、チートだよな」
「ふ~ん」
ここでなぜか楓坂の表情が暗くなった。
そして声のトーンを落として言う。
「音水さんのこと、ずいぶん楽しそうに話すんですね」
あれ? 怒ってる?
俺と音水のことを疑ってるのか?
どうするべきか……。
ここで変に慌てるとかえって怪しまれる。
実際に何もないのだから、自然体で対応するべきだろう。
そう考えて、俺は言葉を続けた。
「……後輩だからな」
言い訳でもなく、肯定でもなく、ただ事実だけを言う。
よし、これなら何も怪しまれることはないだろう。
だが、楓坂は納得していないようだった。
「前から聞きたかったんですけど、笹宮さんって音水さんのことを気にしてますよね?」
「……な、なんで急にそんなことを……」
「すぐに否定しないんですね」
「うっ……」
痛いところを突いてくる。
音水は社内でも抜群の人気がある美人OLだ。
それにスキンシップが多めのため、まったく意識しないことは難しい。
うーん。どうしようか……。
このまま頭ごなしに否定しても疑いが深まるだけだ。
ここはあえて本音でちゃんと説明しておこう。
「まぁ……。気にしていなかったと言えばウソになるが、今は楓坂だけだぞ」
「ふーん」
「本当だからな?」
「へー。そうなんですね」
楓坂だけというのは心からの本心だ。
だが楓坂はいじけたようにそっぽを向いてしまった。
あ……。これ、怒ってる。
絶対……。
「こっち向いてくれよ」
「……今は向こうを見ていたい気分なの」
「そんなこと言うなって」
なんとか楓坂の気を引こうと近づいた時だった。
――ガシャン! っと、キッチンの方から音がした。
突然の物音に、俺と楓坂は顔を見合わせる。
「え……、なに?」
「乾かすために立てかけていたヤカンが落ちたみたいだな」
うちは食器洗い機を使っていないので、洗い物はステンレス製のフレーム棚に置いて乾燥させている。
でもヤカンはスペースをとるので、どうしても不安定な形で置くことになるのだ。
そのため、たまにこうしてバランスを崩してしまうことがある。
「まぁ、でも。ケンカをするなっていうヤカン先輩からのメッセージじゃないか?」
「偶然に決まってるでしょ。自分の都合のいいように解釈するのはどうかと思いますよ」
「ははっ。いいじゃないか」
俺はそう言って楓坂を横から抱きしめた。
やっぱりカレカノになると、ケンカよりもこうして抱き合っている方がいい。
楓坂は呆れたように微笑んだ。
「もう。最近の笹宮さんって本当に甘えん坊ね」
「楓坂もだろ」
そして俺は言葉を続ける。
「なぁ……。下の名前で呼んでもいいか?」
「はい」
「……舞」
「なんですか? 和人さん」
「俺が好きなのは舞だけだから」
「はい。私も和人さんのことだけが好きです」
■――あとがき――■
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次回、結衣花の恋愛バラエティ対策とは?
投稿は【朝7時15分頃】
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