それは恋愛バラエティ
イベント対決の結果発表が終わった後、俺はレヴィさんと控室で話し合っていた。
その内容はもちろん、『三人と恋人体験』をすることについてだ。
「レヴィさん、これはどういうことですか? 三人と恋人体験って一体……」
「うふふ。驚いた?」
「驚愕ですよ」
今回のことを俺は全く知らない。
だがレヴィさんの口振りから、彼女が何かを知っていたことはわかる。
でなければ、予定を無視してレヴィさんが司会をするなんてありえないからだ。
レヴィさんは椅子に深く座って、頬杖をついた。
「よく恋愛バラエティであるでしょ? 仮カップルになって、その中から一人を選ぶっていうの。笹宮さんには三人とデートをしてもらいたいの」
恋人体験ってどんなことかと思ったが、つまりデートなわけか……。
「じゃあ、俺達のデートの様子を公開するんですか?」
「正解。でも動画じゃなくてブログ程度でいいわ。形だけでいいのよ。お金も掛けなくていいから」
大々的に発表したから、とんでもないことをするのかと思ったが、意外とこじんまりとしている。
もしかして、そこまで力を入れなくてもいいのだろうか。
「しかし、よくこんなことを思いつきましたね」
「お昼の休憩時間にイベントの段取りを打ち合わせていた時、音水さんからサプライズのことを聞いたわ。それでこの恋愛バラエティ企画を思いついたの」
そういえば今朝、音水にサプライズのことを話したっけ……。
あの時俺は『スムーズに行くために~』って説明したから、段取り調整が必要と思った音水はサプライズのことをレヴィさんに話したということか。
まぁ、イベント運営としては、それが正しい行動なのだが。
「じゃあ、音水以外の二人は知っていたんですか?」
「ええ。ちょうど会場に来たところを捕まえて相談したら納得してくれたわ」
この指輪はレヴィさんのジュエリーショップで買ったものだから、宣伝にはなるだろう。
だけどそのために、こんなややこしいことを仕掛けるか?
「レヴィさん……。一体何を企んでいるんですか?」
「今回、成重さんと対決していたでしょ? でも、あのまま勝っていても、あの人は負けを認めないわ。だからトドメの追い打ちが必要だったの」
「それはどういう……」
その時だった。
控室のドアを開いて、成重が入ってくる。
そして開口一番の一言が衝撃だった。
「アニキ!」
「は? え? ……アニキって、なんだ?」
なんでいきなりアニキって呼ばれてんだよ!?
成重は俺の前まで来ると、礼儀正しくお辞儀をした。
ついさっきまで横暴な態度を取っていた成重とは別人みたいだ。
「今回の対決、俺の完敗だ! まさか企画の二段構えなんて全然予想できなかった。あんたすげぇよ!」
「いや……これは……」
「俺……、これからは自分の力で仕事ができるように頑張るぜ! 見ていてくれ!」
「あ……ああ……」
真面目って言うか、なんか体育会系だな……。
「いちおう訊ねるが、約束通り楓坂との婚約は解消ってことでいいんだな?」
「当然だ! 今の俺に結婚する資格なんてない! じゃあ、アニキ! 俺は行くぜ!」
「おう……。元気でな」
成重は言いたい事だけ言って、そのまま部屋を飛び出していった。
あまりの豹変ぶりに、俺は唖然とする。
一方レヴィさんはクスクスと笑っていた。
「成重さんはね、昔は今みたいな真面目な人だったわ。でも下心を持った輩ばかりが近づくようになって、歪んだ性格になってしまったの……」
つまりレヴィさんは成重に完璧な敗北を与えることで、昔の彼に戻るように計画したわけか。
だが彼女の言う通りだ。
ひねくれたままの成重なら、『負けたら相手の言う事を聞く』という約束も守らなかっただろう。
「レヴィさんは成重さんと昔から知り合いだったんですか」
「ええ。ずいぶん前だけど、彼の家庭教師をしていたことがあったわ」
そういえば成重とレヴィさんの言動は、以前から知り合いだったような気軽さがあった。
なるほど。まんまとダシにされてしまったな。
でも、結果的に楓坂と成重の婚約も無事に解消できたし、まずはこれで良しとするか。
「じゃあ、笹宮さん。頑張って三人とデートしてね」
「……本当にするんですね」
「当然よ。四角関係の恋愛なんて最高じゃない」
「面白がってませんか?」
■――あとがき――■
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
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次回、突然の恋愛バラエティ企画。楓坂の反応は?
投稿は【朝7時15分頃】
よろしくお願いします。(*’ワ’*)
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