結衣花の気持ち
買い物を済ませた俺達は駅ビルを出て帰ることにした。
空はすでに夜。
十一月の寒暖差の影響で、夜はかなり冷えた。
夜道は危険だと思い、俺は結衣花を自宅まで送ってやることにする。
「今日はありがとう。買い物の手伝いだけじゃなく、ブレスレットまで貰ってしまって」
「ううん。こっちもプレゼントを貰えて嬉しかったし」
歩きながら何気ない会話をする俺達。
でもこの状況って他の人から見たら、結構不自然なんだろうな。
だって社会人と女子高生の組み合わせなんだぜ。
普通なら通報されてもおかしくない。
するとすれ違った二人の女子の会話が耳に入った。
「さっきの二人って付き合ってるかしら?」
「どうかな。女の子が若すぎない?」
「だよね。でも自然だったから、違和感なかったよね」
「家族かな? 兄妹とか?」
「あ~、そうかも」
ふしだらな関係を疑われるのではと警戒したが、どうやらその心配はなさそうだ。
だがカレカノと間違えられたのは、ちょっと照れくさい。
それは結衣花も同じだったらしく、俺をチラリと見た後、すぐに顔を前に向けた。
「俺達、よくカレカノと間違えられるよな」
「そうだね。ブレスレットを買う時も、ジュエリーショップの女社長さんにからかわれてたんだよ」
「レヴィさんに?」
「うん」
そういえばレヴィさん、妙に結衣花のことを気にしていたもんな。
結衣花へのプレゼントを買う時も、包装紙をやけにこだわって包んでくれたし。
でも俺のカノジョは結衣花ではないと言ったのにどうして?
……もしかして、結衣花が俺に片想いをしていると考えて応援しようとしていた? ということか?
うーん。わからん。
レヴィさんってどこか掴みどころがないんだよな。
結衣花はというと、特に気にするそぶりを見せず、淡々と話を続けた。
「でも私達の関係って変だよね。女子高生と社会人がこうして買い物に行くなんて、普通はしないよ」
「そうかもな」
「しかも友達みたいに普通に会話してるし」
「そうだな」
普通はしないことをして、日常のやりとりは普通にしている……か。
たしかに、俺達の関係は変わっているのかもしれない。
それは社会人と女子高生だからではあるのだが……。
「結衣花はどうして、いつも俺なんかを相手にしてくれるんだ?」
すると結衣花は立ち止まり、じーっと見つめてきた。
「どうしてだと思う?」
「……わからん」
「ここで『俺がイケメンだからだろ?』って言わないんだ」
「そこまで自信過剰じゃないからな」
「どうでもいいことは自信過剰だけどね」
俺、そんなに自信過剰なところ、あったっけ?
心当たりがあるとすれば、コミュ力の相談をする時か。
俺のコミュ力レベルは『普通よりちょっとだけ低い』という自己分析だ。
我ながら謙虚かつ冷静な分析。全く問題ない。
もしこれで自信過剰というのであれば『壊滅的にコミュ力が低い』と言うことになる。
さすがの結衣花もそこまでは考えていないだろう。……たぶん。
結衣花はゆっくりと歩き出す。
「正直に言うとさ、私にもわかんないんだよね」
「『どうして俺の相手をしてくれるのか?』って言う話のことか?」
「うん。うまく言えないけどさ、その人がいるだけで気持ちが楽になれる時ってない? お兄さんってそういう感じなんだよね」
「俺ってマイナスイオンが出てんのかな?」
「ほんと、アホだよね」
「ひどいな」
もちろん今のは冗談だ。
きっと結衣花のアホ発言も冗談だろう。
そうだと信じてるぜ。
「でもちょっと近いのかも……」
「というと?」
「お兄さんといる時の感覚って、景色を眺めながらぼんやりと音楽を聞いている時に似ているんだよね」
「ああ、それわかるよ。ダラダラしているわけじゃないけど何もしない時間を味わう的なやつだろ」
「うん。それ」
そうそう。あの時間を贅沢に使う感覚って、すっげぇ癒されるんだよな。
「だから他の人が思う恋愛感情とかと違うと思う。楓坂さんとお兄さんが付き合うって聞いた時も、ヤキモチなんて感じなかったもん」
「それはそれで、ちょっとさびしいな」
「楓坂さんに聞かれたら怒られるよ」
「ははっ、違いない」
俺が笑ってそういうと、結衣花も優しく微笑む。
「でも、まぁ……。これからも一緒にいたいかな」
「そうだな。結衣花がいなかったら、俺のコンディションがガタガタだ」
そうなんだよな。
俺も結衣花も、お互いに一緒にいたいという気持ちは変わらない。
恋愛感情でも友情でもない。
俺達だけの感情だ。
だからこそ、大切にしたい。
そして結衣花の自宅に到着した。
「送ってくれてありがとう」
「ああ。じゃあ、また明日な」
「うん。おやすみなさい、お兄さん」
■――あとがき――■
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次回、サプライズ方法はまさかの!?
投稿は【朝7時15分頃】
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