結衣花は恋のプロデューサー


 スパ施設を体験した翌日の月曜日、俺はいつもの通勤電車に乗っていた。


 そして予定調和の如く、彼女が挨拶をしてくれる。


「おはよ。お兄さん」

「よぉ、結衣花」


 隣に立った結衣花はスマホを持ったまま、俺の顔をじっと見てきた。


「なんだかスッキリした顔をしてるね。御曹司さんとの対決に勝機を見出したって感じ?」

「ああ、ちょっとリラックスして考えたら、すんなりと新企画が思いついたよ」

「そっか。さすがだね」


 話の流れで、俺は御曹司と仕事で対決することになっていた。


 もし負ければ俺は一生、御曹司にこき使われることになる。

 しかし、勝つことができれば楓坂と御曹司の婚約を解消することができるのだ。


 アイデアをまとめるのに時間が掛かったが、スパ施設でリラックスできたおかげでいい企画が仕上がった。

 これで負けることはないだろう。 


「そうだ。これ、お土産だ」

「ありがとう。ふぅ~ん、あのスパ施設に行ってきたんだ」

「ああ」

「楓坂さんと一緒に?」

「まぁな」

「なるほど。じゃあ、戦況報告を聞くとしようかな」


 戦況報告?

 もしかして、楓坂とどこまで進んだのかについてか?


「……全部話さないといけない流れか?」

「話してくれないと、状況がわかんないじゃない」


 いつもアドバイスをしてくれる結衣花には、できるだけ報告しておきたいところだが、さすがに男女の間について話すのは……。


 だってさ、ほら……。

 どうしても十八禁の話とかになっちゃうだろ。


「カレカノの関係だぞ……。さすがに言いづらいことが……」


 結衣花は首を傾げる。


「言いづらいところまで関係が進んだってこと?」

「見栄って張っていいかな?」

「進んでないんだ……」


 そうなんだよな。

 いちおう一緒の布団で寝るというところまでは進んだが、本当にそれだけだ。


 事故で胸を揉んでしまったということはあったが、それだってハプニングであって、俺達の関係が進んだわけじゃない。


 同居生活を始めてから、もう二ヶ月。

 明らかに進捗状況は芳しくなかった。


 結衣花は「はぁ……」と深いため息をつく。


「もう付き合い出してそこそこ経過しているのに、未だに進展がほとんどないなんて、お兄さんにはがっかりだよ」

「そんなにあきれなくても……」

「口答えしないの」

「はい……」


 小学生の頃、先生からこんな風に怒られたことあったっけ。


 ここで結衣花は俺が考えもしなかった問題点を指摘した。


「あのさ。もう十一月だよ? 御曹司さんとの婚約解消が成功したあとのこととか考えてる?」

「……? どういうことだ?」

「お兄さんがこうして楓坂さんと一緒にいられるのは、『婚約解消』っていう目的が幻十郎さんと共通しているからでしょ?」

「そうだな」

「でも、御曹司さんと婚約解消ができた後、幻十郎さんはどうすると思う?」


 そこまで聞いて、俺はようやく結衣花が心配していることに気づいた。


「……楓坂を俺から引き離す?」

「うん」


 そりゃあそうだ。

 幻十郎さんに付き合っていることは伝えたが、まだちゃんと俺達の関係を認めてもらったわけじゃない。


 あくまで今の状況を容認してくれているのは、『婚約解消』という共通の目的があるからだ。


「そこまで先の事を考えてなかった。ヤバいな……」


 イベント対決の方は勝てる自信がある。

 だが、幻十郎さんを認めさせるほどの材料はまだない。


 どうすればいいか……。


 考えあぐねていた時、結衣花が口を開いた。


「あのさ。提案なんだけど、イベント対決に幻十郎さんも呼んでみたら?」

「どうしてそんなことを?」

「幻十郎さんに勝つところを見せて、さらにお兄さんと楓坂さんがお似合いのカップルってところを見せつけるの。そうすれば幻十郎さんも無理に引き離したりできないでしょ?」

「……なるほど」


 もちろん勝てないと意味はないが、実際に俺が活躍する場面を見せることで、信頼を得るというわけか。


「しかし、自慢じゃないが俺と楓坂にお似合いカップルを演じる技量なんてないぞ」

「そこは私がプロデュースしてあげる」

「結衣花が?」

「うん。任せて」


 結衣花が俺達をプロデュースか。

 頼りにはなるが……大丈夫だろうか。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、結衣花のプロデュース案とは!?


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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