朝のラブコメハプニングといえば?
スパ施設に宿泊をした朝。
目が覚めると、背を向けて寝ている楓坂を後ろから抱きしめるような体勢になっていた。
そういえば昨日、俺は楓坂と一緒の布団に寝たんだった。
とはいえ、何もなかったのだが……。
「……まだ朝五時半か」
確か朝風呂って五時から入れるんだよな。
せっかくスパ施設に宿泊しているんだし、いってみるか。
そう思って体を起こそうとした時、『むにゅん』と手に柔らかい感触があった。
……なんだこれは。
むにゅむにゅ。
すごく柔らかい。水風船やスポンジとも違う柔らかさ。ほどよい温かみ。
むにゅむにゅ。
手になじむというか、まるで手が包みこまれるような大きさと包容力。
むにゅむにゅ。
すごくいい感触なので、クセになりそうだ。
いったいこれはなんだろうか……。
名探偵クラスの頭脳をフル回転させて、この柔らかいものの正体を推理する。
それは……
「もしかして……、楓坂の胸か……」
いくらカレカノで一緒の布団で寝たとはいえ、寝ている彼女の胸を揉むのはマズイ。
バレたら嫌われてしまうかもしれない。
楓坂が起きる前に布団から出よう。
「楓坂が寝ている隙に……って、ん? 手が離れない?」
よくよく見ると、俺の手を楓坂はがっちりと掴んでいた。
もし強引に引き剝がそうとすれば楓坂が起きてしまう。
とにかく、ゆっくりと静かに離れよう。
そう思ったが、ここで楓坂が声を上げた。
「ん……」
「――ッ!?」
起きたか!? いや、少しだけ声が漏れただけのようだ。
危ない……。起きるかと思ったぜ。
もう一度ゆっくりと離れよう。
だが、楓坂は手を離してくれない。
正確には少しでも離れようとすると、再び掴みなおしてくるのだ。
なんだか反応がおかしいな。
もしかして楓坂のやつ、起きてるんじゃないのか?
俺は小声で話しかける。
「楓坂……、おはよう……」
すると楓坂は俺の体に抱きついてきた。
「……おはよう……ございます……」
「なんだよ。起きていたのか」
「今、ついさっき起きました」
そりゃあそうか。
もし起きていたのなら、楓坂が自分の胸を俺に揉ませていたということになるんだからな。
そんなことあるわけがない……。
あるわけ……ないよな?
「せっかくスパ施設に来ているし、朝風呂に入ってくるよ」
「わかりました。私もそうします」
こうして俺達は、それぞれ朝風呂に入ることにした。
◆
風呂から上がった俺は、大浴場のすぐ近くにあるベンチに座って楓坂を待っていた。
すると、風呂から上がった楓坂が長い髪を結い上げてやってきた。
へぇ。楓坂のこういう髪型ってみたことないけど、かわいいな。浴衣姿とも相性がいい。
「ふぅ……。さっぱりしました。朝に温泉っていいですね」
「そうだな。ところでその髪型、艶やかでいいな」
「ふふふ。褒めてくれて嬉しいわ」
俺の隣に座った楓坂は、身を寄せてくる。
「なんだよ。朝から甘えてくるなんて」
「こうしてお泊りの朝なんて、あんまりないでしょ」
「それもそうだな」
普段とは違う場所だからこそ、甘えたい衝動というのは強くなるものだ。
今の楓坂がまさにそうなのだろう。
同時にそれは俺も同じ気持ちだった。
朝風呂上がりで普段とは違う楓坂が、火照った体で俺に身体を預けてくれる。
そんな彼女を見ていると、つい抱きしめてしまいたくなった。
楓坂と目が合う。
見つめ合って数秒が流れた時――、小さな男の子の声が聞こえた。
「あー、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん。イチャイチャしてるー。チューしようとしてるー」
「こら。こういう時は見ていないフリをしてあげるのよ」
「はぁーい」
母親にたしなめられた男の子は、そのまま大浴場に入って行った。
そうだよなぁ……。こんなところでいちゃついていたら、他の人に見られてしまうよな……。
俺達って盛り上がると、時々周りが見えなくなるようだ。
今後は注意しよう。
楓坂を見ると、顔を真っ赤にしてちいさくなっている。
……最近、楓坂が恥ずかしがっている姿が無性に可愛いと思える。
■――あとがき――■
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次回、結衣花から提案?
投稿は【朝7時15分頃】
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