布団の中で


 スパ施設に宿泊することになった俺と楓坂。

 布団に入って寝ようとした時、突然楓坂が驚くことを言い出した。


「一緒のお布団で、その……寝たいというか……」


 俺と楓坂はカレカノだ。

 そんな二人が同じ布団で寝るということは、つまりそういうことだろう。


「あ、……ああ。大丈夫だ」

「じゃあ、そっちに行きますね」


 楓坂は布団を出て、俺の方へとやってきた。

 おじゃましますと一言言ってから、俺の布団の中へ入ってくる。


 だが恥ずかしいらしく、俺とは距離を取っていた。


「やっぱり一つの布団に二人だと、スペースに余裕がないですね」

「そうだな。ほら、もっとこっち来いよ。そんなに隅っこだとはみ出るだろ」

「はい……」


 俺達の距離は、お互いの肩が触れ合うくらいまで近くなる。

 まるで相手の熱まで伝わってくるようだ。


「き、緊張しますね……」

「ああ……」


 同居生活が始まってから、俺達は稀に抱き合ったり手を繋いだりすることが多くなった。

 この距離が特別という事はない。


 だが、同じ布団の中だとまったく別次元の感情が揺れ動く。


 すると楓坂がふと別の話題を持ち出した。


「なんだか不思議ですよね。私達、ずっと仲が悪かったのに……」


 そうだ。

 少し前まで俺達は互いの事を嫌い合っていると思っていた。


 しかし……と俺は思う。


「なんとなくだが、俺は初めて会った時から縁を感じていたかな」

「そうだったんですか?」

「カレカノになるとは思わなかったが、ただの関係では終わらないとおもったことを覚えているよ」


 初めて会った時、楓坂は敵意をむき出しにしていた。


 だがそんなことは生活をしていれば、いくらでもそんな奴はいる。

 特に俺の無愛想な顔は、敵を作りやすかった。


 だが、そのことを差し引いても、楓坂に特別な何かを感じていたのは間違いない。


 楓坂も初めて会った時のことを思い出して語り出した。


「私は……結衣花さんを取られたくなくて、必死でしたね」


 だが楓坂はすぐに「いえ、違いますね……」と言い直す。


「笹宮さんと始めて会った時にはすでに婚約の話が進んでいたんです。その不安をあなたにぶつけようとしていたのかもしれません」


 楓坂は悩むと一人で抱えると事があるからな。

 きっと今も俺には言えないような悩みを抱えていて、ひそかに苦しんでいるのだろう。


 だが、そんな彼女を俺は守ってやりたいと思った。


「あんまり無理をするなよ。今は俺がカレシなんだから、甘えていいんだぞ」

「笹宮さん……」


 すると彼女は突然、俺の腕に抱きついてきた。

 たゆんと、柔らかい感触が俺に伝わってくる。


「やっぱり私、笹宮さんのことが好き。もう頭がめちゃくちゃになるほど好き」


 楓坂は抱きしめる腕に力を込めてくる。


「ずっと抱き合っていたい。いっぱい抱き合っていたい」


 楓坂がこんなにストレートに感情を伝えてくるなんて、かなりめずらしいことだ。


 嬉しさや恥ずかしさが入り混じり、俺も不思議な甘くて刺激的な感情に飲み込まれていく。


「だから……、その……」


 ためらいがちに彼女はおねだりをしようとした。

 もちろん、俺の気持ちは決まっている。


 そして彼女は言う。


「う……腕枕……、してください!」

「え?」

「腕枕ですよ! 腕枕! カレカノなら定番のシチュじゃないですか」

「そ、そうなんだけど……」


 いや、ここで腕枕を要求するのってどうなわけ?

 カレカノで一緒の布団に入っているだぞ?


 まぁ、アリかナシかと言われたら、アリなのだが……。


「しょうがないな。ほら」

「うふふ」


 腕枕をしてやると、楓坂はまるで子供になったようにはしゃいで喜ぶ。


「笹宮さん、笹宮さん」

「はいはい。ここにいるよ」

「ふふふ」


 すると彼女は、俺が着ている寝間着にキスをした。


 ほとんど感触は感じなかったが、ウブな彼女なりの精一杯のアピールなのだろう。


「本当に楓坂は甘えん坊だな」

「いいんです。だって私の方が年下なんですから」

「だったら年上の俺を敬ってくれよな」

「そんなのおもしろくないでしょ。笹宮さんに甘えて、いじって、こうして一緒にいたいの」


 その言葉はまさしく俺と同じ気持ちだった。

 だから俺も言う。


「俺も楓坂とずっと一緒にいたいよ」


 俺は楓坂の髪にキスをした。

 今の俺にはこれが精一杯だろう。


 これから少しずつ、もっと距離を詰めて行けばいい。


 そう思ったのだが……、


「ふにゃ~」

「また、のぼせてしまったか……」


 距離を詰めるのは、なかなか大変そうだ。



■――あとがき――■

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

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次回、朝風呂上り


投稿は【朝7時15分頃】

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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