成重の要求
俺と音水は、美人社長レヴィさんと打ち合わせをしていた。
そこに現れたのは楓坂の婚約者・財閥御曹司の砂川成重。
横暴な態度で挨拶する成重に、レヴィ社長は眉をひそめる。
「成重様……、なんの用でしょうか?」
「用があるのは、そっちの男だ」
成重は俺の方を見ると、ズカズカと近づいてきた。
にやけ顔をしているが、俺の事を睨みつけている。
「よぉ、笹宮! この前はよくも恥をかかせてくれたなぁ!」
「私はなにもしていませんが……」
「うるせえ! 御曹司のオレをなめんなよ!」
成重が片手を上げると、後ろに控えていた若い男性がファイリングされた資料をレヴィ社長に渡す。
表紙には『クリスマスイベントの概要』とラベリングされていた。
それはついさっきまで俺達が打ち合わせをしていた案件のことだ。
「おい、レヴィ! 十二月にイベントをするんだろ! だったらその仕事をオレにやらせろ!」
「成重様がイベントを? ですが、あなたにはノウハウがないのでは……」
「へっ! 余裕だ! オレが笹宮より優秀だってところを全員に思い知らせてやる!」
資料を読ませてもらうと、そこには大手広告代理店を始め、さまざまなプロフェッショナルから協力を得ることが記載されている。
内容的に成重は赤字だが、これならレヴィ社長が損をすることはない。
「笹宮さん、どうですか?」
困惑気味に訊ねてくるレヴィ社長に、俺は答える。
「……我が社としてはよくありませんが、レヴィ社長の立場もあります。私が手を引くことで丸く収まるのであれば、受け入れるしかありません」
「……ごめんなさい」
それに今回の横暴な行動は、楓坂との婚約解消の材料にすることができる。
気に入らないところはあるが、今は我慢するしかない。
俺があっさりと身を引いたことに気を良くした成重は高笑いをした。
「ぎゃはははは! 見たか、笹宮! 結局、世の中は権力と金なんだよ!」
「……」
「たかが三流の会社員がオレより目立つからこうなるんだ! ざまぁみろ! この無能野郎!!」
楓坂やレヴィ社長のことがあるから黙っているが、さすがにここまで言われると不愉快だ。
とはいえ、今はこうして泳がせた方がいいだろう。
こういう男は放っておくと自滅すると、俺は経験則で知っている。
後は材料を揃えて、楓坂との婚約解消へ持ち込めばいい。
その時だった。
「いい加減にしてください!」
ピシャリと声を上げたのは、俺でもレヴィ社長でもない。
音水遙。入社してまだ一年も経っていない、俺の後輩だ。
音水は成重を指さして叫ぶ。
「あなたなんなんですか! 笹宮さんのことを知らずにバカにして!!」
「ぁあ!? 知ってるよ! オレより無能ってことをな!!」
「笹宮さんはすごいんです! 仕事もできるし、カッコいいし!!」
「ちょ……、オレにもしゃべらせ……」
「笹宮さんは優しいし、いざとなったらどんなことも解決しちゃうし!! 朝とかいい匂いするし!!!」
「ぐ……ぐ……」
そして音水は極めつけの一言を言った。
「その点、あなたなんて……成金趣味のダサ男じゃないですか!!」
あー。言っちゃったよ。
たぶん成重のことを知っている全員が思っていたことを、本人の目の前で……。
レヴィ社長はというと、「ぶっ!」とこらえきれなくなって吹いていた。
一方、成重は顔を真っ赤にして、ブルブルと震えながら怒っている。
「て、て、て、てめぇ! オレが誰なのか知ってんのか!!」
「知りません!! でも笹宮さんの方がカッコイイことはわかります!!」
「ぶぎゅぎぎぃ!!!」
あまりの怒りに、成重は顔をめちゃくちゃにゆがめた。
本来のイケメンが原型を残さないほどの変顔になっている。
「お、音水……。そろそろ抑えないと、成重さんの顔面が崩壊してしまうぞ」
「いいえ、まだ言い足りません! あと十時間はぶっ通しで話したいです!」
「残業じゃん……」
恐るべき後輩だ……。
味方でよかったとつくづく思うよ。
すると成重は俺を指さした。
「もうキレたぜ! 笹宮ぁッ! オレと勝負しろ!! オレとお前、どっちが集客できるか勝負だ!!」
勝負……。
その一言に、俺は食いついた。
「では、その勝負に勝ったら、こちらの要求を呑んでくれますか?」
「いいぜぇ。どんなことでも聞いてやらあ。その代わり、オレが勝ったらてめぇは下僕だ。一生惨めな人生を味合わせてやる」
「わかりました。では勝負しましょう」
まさに棚から牡丹餅。
この勝負に勝つことができれば、楓坂との婚約解消を要求することができる。
これは勝つしかないな。
■――あとがき――■
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投稿は【朝7時15分頃】
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